危険を見過ごしてしまう「正常性バイアス」とは
――そもそも、なぜこのような異常事態でも「自分だけは大丈夫」と感じてしまうのでしょうか?
広瀬弘忠氏(以下、広瀬) 人間は、実際には危険の中にいても不安ばかり感じていたら生きていけません。しかも、私たちは安心したがる動物ですから、危険が高まれば高まるほど危険な情報をシャットアウトして安心を得ようとします。そのため、不安が強い人ほど安心を求めるのです。
また、今回のように「LINE乗っ取り詐欺」について多少なりとも知識があれば、「自分には抗体や免疫がある」と錯覚して「騙されるはずがない」と感じます。さらに、よく考えてみると「おかしい」と感じるような危険でも、状況が徐々に変化しているときにはなかなか気付きません。このように、危険を「正常な範囲だ」と認識する心のメカニズムを「正常性バイアス」と呼びます。
――どのような人が、正常性バイアスに陥りやすいのでしょうか?
広瀬 より強く安心したがる繊細な人や、精神的にあまりタフではない人です。自信はあるけれども無防備でスキのある人たちも当てはまります。
特に日本人は「人を見たら泥棒と思ってはいけない」などと教え込まれ、「和」を大事にする文化の中にいます。そのため、「おかしい」と思ったときでも「相手を疑うことは失礼だ」と考え、正常性バイアスが強固になってしまうのです。
しかし、本来は疑うことが大事で、むしろ正常です。「信頼し合うこと」は良しとされます。ですが、疑うことを排除してしまうと合理的な判断ができずに騙されやすくなります。たとえば、今回のように友達を装っている場合は、「友達だったら、こんな言い方をするだろうか?」と疑ってかかっても、なんら問題はありません。疑うことで真偽や不正の有無を確認できるため、結果的には自分とまわりの人々との関係がより強固になるのです。