“物流パンク”の救世主と目される宅配ロッカー(宅配ボックス)。国を挙げての導入が進められているが、業界の動向はどうなのか。
そこで、7月7日付記事『宅配便1日1000万個で社会問題化…宅配ロッカーは物流パンクの救世主となるか?』では、日本で初めて宅配ロッカーを開発した原幸一郎氏が代表取締役を務めるフルタイムシステムの広報室に話を聞いた。後編では、宅配ロッカーにまつわる「なぜ」について、お伝えする。
宅配ロッカーで現金書留は受け取れる?
――宅配ロッカーで受け取れないものはあるのでしょうか?
フルタイムシステム広報室(以下、広報) 最終的に配送会社さんの判断に任され、弊社としては「受け取れる/受け取れない」の断言ができない荷物がいくつかあります。代引きや着払いの荷物、貴重品、クール(冷蔵、冷凍)の荷物、家電、食品(生鮮食品)などですね。これらは受け取れないケースもあるかもしれません。ただ、食品に関しては、弊社では食品専用の宅配ロッカーも用意しています。
――前編で「書留が宅配ロッカーで受け取りOKになったことで普及が進んだ」という話がありましたが、「現金書留」も受け取れるのでしょうか?
広報 現金書留は難しいかもしれませんね。まず、書留を宅配ロッカーで受け取りたい場合は、入居者さんが日本郵便さんに対して「この宅配ロッカーで書留を受け取りたい」という「指定場所配達」の届け出を事前に出す必要があります。
ただ、送り手から「手渡しでなければダメ」と指定されている場合、「指定場所配達」の申請をしていても宅配ロッカーでは受け取れないそうです。さらに、郵便局側の判断で「手渡しでなければNG」とされるケースもあり、その判断は局によって違うともいわれています。
宅配ロッカーがあるのに不在届が入る謎
――宅配ロッカーといえども、すべての荷物を受け取れるわけではないんですね。
広報 弊社としては「送る側」と「受け取る側」がOKであれば「なんでも入れてください」という立場ですが、万が一のことを踏まえ、「送る側」「配送」「受け取る側」のみなさまの判断にお任せしています。もちろん、宅配ロッカーはログで荷物の出入り確認をしているため、安心してお使いいただける体制を整えています。
――書留の場合、紛失の責任は日本郵便が(制限の範囲内で)負うため、日本郵便が「入れないほうがいい」と判断するのもわかりますね。
広報 逆に言えば、「送る側」「受け取る側」「配送会社」がすべて「宅配ロッカーでの受け取りOK」という荷物であれば、宅配ロッカーで受け取ることができます。
――私の住む集合住宅にも宅配ロッカーがありますが、たまに、先ほどの「受け取れないかもしれないもの」でも、現金書留でも、入らないほど大きいものでもないのに、不在届が入っていることがあります。
つまり、それは「送る側」もしくは「配送会社」がNGとしたケースということですね。となると、受け取る側とすれば、EC(電子商取引)の利用時に備考欄に「宅配ロッカーに入れてください」と明記しておけば、入れてもらえる可能性が上がるということですね。
広報 はい。それでも難しいケースはあるかもしれませんが、受け取る側がその一言を添えるだけで、「送る側」は「宅配ロッカーに入れていい」と判断することができますし、箱にそう明記されていれば配送会社さんもわかります。そのため、荷物を受け取れる確率は高くなると思います。
――「受け取る側が意思表示をする」ことが大切なんですね。「宅配ロッカーがない状態で建てられた既存の集合住宅に設置したい」というケースで、「スペースの都合上置けない」ということはあるんですか?
広報 そうですね。建蔽率の問題などもあるため、現地を見て調査させていただきます。ただ、最近は「POSTAKU」という省スペース型の製品も開発しています。これは、上部が郵便受け、下部が宅配ロッカーになっていて、もともと郵便受けがあった場所に設置できるものです。そのほか、購入ではなくレンタル型の宅配ロッカーも提供しています。
「EC大国」米国は業者が荷物を置き去りに?
――宅配ロッカーは貴社発の事業とのことですが、海外でも事業を行っていますか?
広報 韓国には、弊社の合弁企業である株式会社EZロッカーが、弊社の技術供与の下でマンション、駅、コンビニなどに宅配ボックスを設置しています。
――ECの普及による荷物増とそれに伴う配送会社の負担増は、先進国に共通する問題のはずですよね。アマゾンはアメリカのサービスですし、そもそもアメリカはEC大国ですが、宅配ロッカーは普及していないのでしょうか。
広報 アメリカ在住の友人がいるのですが、不在の場合、荷物は家の前にそのまま置いていかれるそうです。アマゾンの場合、それで荷物を紛失しても、また同じものを無料で送ってくれるそうです。アメリカでも、日本同様に「受取人のサインがないとダメ」という配送サービスも選べるそうですが、配送料がすごく高くなってしまうようです。
――戸数の多いマンションの場合、宅配ロッカーはあっても、すべて埋まってしまって荷物を預けられないというケースもあるかと思いますが、どう対処していますか?
広報 満杯にならないよう、さまざまな取り組みを進めています。ライオンズマンションを展開している大京様と組んでライオンズマイボックスを開発し、一戸につき郵便受けと専用宅配ロッカーがセットになったマンションの提供を始めています。
――集合住宅の場合、宅配ロッカーは戸数より少なく、入居者が共有で使うのが一般的ですが、自室専用の宅配ロッカーがあるということですね。
広報 はい。自室専用の宅配ロッカーは、一番使用頻度の高いサイズを採用しています。さらに、日本郵便、佐川急便、ヤマト運輸の3社に限り、他社の荷物が入っていても追加で荷物を入れられるという特徴があります。なお、ほかの配送会社さんの場合や専用ロッカーに入らないような大きな荷物は、全入居者共用の宅配ロッカーに入れていただくかたちです。
三井不動産レジデンシャル様とは、宅配ロッカーの「Sサイズ」をもっと小さくしたものを発表しました。というのも、アマゾンさんの荷物は昔より小さいものが増えたからです。
――確かに、以前は本1冊でも大きな箱で届けられて閉口しましたが、今は袋になりましたよね。
広報 はい。そのため、Sサイズのボックスをさらに薄くして、従来と同じスペースでより多くの数のボックスを設置できるようにしました。一方、メール便など郵便受けの投函でOKのサービスも増えたため、逆に郵便受けは大きくするという対応も行っています。
――「受け取りが楽なので、郵便物として受け取りたい」というニーズも強いですよね。
広報 また、宅配ロッカーに荷物が入ると、配送会社のドライバーさんが郵便受けに通知を入れます。しかし、それに気づかずに宅配ロッカーが空かないというケースもあります。
――1人暮らしで、ポストを開けるのが週1回、という人だと気がつくのも遅れてしまいますよね。
広報 そういった方に向けて、今までは「お荷物が入りました」というお知らせのメールを3日後に送っていたのですが、今は2日後の連絡にする取り組みも進めることにしています。
――ありがとうございました。
再配達の荷物の7割が時間指定をしていない
国土交通省の資料【※1】によると、受取人不在の荷物の約7割が時間指定をしていないという。
さらに、1回目の配達で受け取れなかった理由は「配達が来るのを知らなかった」が約42%、「配達が来るのを知っていたが、用事ができて留守にしていた」が約26%、「もともと不在になる予定だったため、再配達してもらう予定だった」が約14%と、いわば「再配達を前提とした不在」があわせて4割を占めている。
こうした「再配達前提の不在」に対しては追加料金を課せばいいと思うが、現実的には難しいのだろう。
宅配ロッカーの増加は有用な取り組みだが、補助金を出すほど国も対策に本腰を入れるのであれば、「協力する人に報酬がある」仕組みを増やしたり、「CMや学校教育などで、再配達は社会問題であり、一人ひとりの自助努力で改善できる問題である」ことを伝えたりする動きも加速してほしい。
再配達が配送会社の生産性を下げ、物流業界全体を疲弊させる。そして、それはやがて、値上げなどのかたちで消費者にも跳ね返ってくるのだ。
しかし、「こうであらば」や「悪質な利用者にペナルティを課せ」と言ったところで、なんにもならない。フルタイムシステムへの取材を通じてわかった「今から、一人ひとりができること」をもう一度見直してみたい。
【自宅に宅配ロッカーがない人】
・駅や近所の商業施設にある街置きの宅配ロッカーを探し、そこで荷物を受け取る。
・賃貸の集合住宅の場合、更新時に家主に「宅配ロッカーがあるとうれしい」と打診してみるのも手だ。大手不動産情報サイトでは、物件の検索時に「バストイレ別」「2階以上」「南向き」といった項目に「宅配ロッカー完備」の項目が入っているところも多く、家探しの必須条件に挙げる人も少なくない。空室があれば家主も困っているはずで、物件の付加価値向上のために宅配ロッカー導入を検討してもらえる可能性もある。
・戸建て向けの宅配ロッカーも販売されている。
【自宅に宅配ロッカーがある人】
・「宅配ロッカーがあるのに受け取れない」を防ぐために、EC利用時は備考欄に「宅配ロッカーに入れてください」などと追記する(※ただし、貴重品などは受け取れないケースもある)。
・日本郵便で不在が多い場合は「指定場所配達」を届け出る(※郵便物の種類によっては、届け出をしても宅配ロッカーで受け取れないこともある)。
・満杯を防ぐために、入った荷物はすみやかに取り出す。
物流業界の効率化のためには抜本的な対策が必要だが、個人レベルでできることもまだある。状況が少しでもよくなることを願う。
(文・構成=石徹白未亜/ライター)