ウェブでは「東洋経済」が「文春」を圧倒なのに雑誌では真逆になっている理由
ダウンロードしたものの、数回使っただけで休眠状態だったり、アンインストールしてしまったりしたアプリがある人も多いはずだ。テレビCMなどでは「数百万ダウンロード突破!」と威勢のいい言葉をよく聞くが、実際にどんなアプリがどの性年代にどのくらい使われ続けているのか。
本連載では、ダウンロード数だけでは見えない「アプリの利用率」をモニターの利用動向から調べるサービス「App Ape」を提供しているフラーに、四半期ごとに人気アプリの実態について聞いている。
今回も、同社のコンサルティング本部長の岡田雄伸氏に2018年第2四半期(4~6月)を中心にアプリの動向を聞いた。
出版社系ニュースサイトのPVをABC協会が公開
――本連載では、四半期を象徴するアプリを岡田さんに紹介していただいています。今回はいかがでしょうか。
岡田雄伸氏(以下、岡田) まず、アプリではなくウェブサイトなのですが、アプリにも関連する興味深いデータの公開がありましたので紹介します。
「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社)や「文春オンライン」(文藝春秋)など、出版社が運営しているニュースサイトは人気のあるものが多いですよね。第三者機関である一般社団法人日本ABC協会が各出版社系ウェブサイトのページビュー(PV)数などを公開することになり、2018年4~6月のデータが公開されました【※1】。
――ABC協会は、雑誌広告の売り手である出版社と、買い手である広告主、仲介する広告会社の3者で構成されており、第三者の立場で雑誌の部数を監査、発表する機構です。公開されたデータを見ると、「東洋経済オンライン」「文春オンライン」以外にも「AERA dot.」(朝日新聞出版)、「女性自身」(光文社)、「ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト」(CCCメディアハウス)など、著名な雑誌が母体となっているサイトが多数入っています。
ニュースアプリ最大の武器は「プッシュ通知」
――出版社系ウェブサイトだけでなく、今はニュースアプリもありますよね。
岡田 ニュースアプリでは「スマートニュース」「Yahoo!ニュース」「グノシー」「ニュースパス」などが有名ですね。ただ、ニュースサイトとニュースアプリではPV数を単純に比較できないんです。「1ユーザー当たりの価値」もアプリとウェブでは変わってきます。
――どういうことでしょうか。
岡田 「あのニュースの最新情報を知りたい」と思ったとき、パソコンの場合はブラウザを開いて関連ワードで検索すれば一発ですよね。一方、ニュースアプリは、まずは「Google Play」などのストアに行ってインストールしなくてはなりません。ユーザーにしてみれば、ハードルが高いですよね。
――「あのニュースの動向を知りたい」と思ったときに、あえて新しいニュースアプリをダウンロードする、という人はおそらくほとんどいないでしょうね。
岡田 現状では、各ニュースアプリのPV数は出版社系ウェブサイトには及ばないでしょう。ただし、ニュースアプリには「ユーザーにプッシュ通知を送ることができる」という、ウェブサイトにはできないメリットがあります。
たとえば、「平成の次の元号、ついに決定!」などの速報性の高い情報を、メディア側からユーザーのスマホに能動的に送ることができる。一方、ウェブサイトであれば、ヤフーのトップページを見て、たまたま「え! 元号発表されたの!」と知るしかありません。いわば、ウェブサイトは受動的なんです。これはウェブとアプリの一番の違いですね。
――メールマガジンなどを発行しているウェブサイトもありますが、スマホで通知が来るのと、メールのアプリやソフトを開いて……では、手軽さが違いますしね。
岡田 プッシュ通知があることから、「ユーザーに広告をクリックさせる」「商品を購入させる」といった広告効果などは、アプリのほうが高いともいわれています。
――プッシュ通知を生かしニュースもウェブからアプリへのシフトが続くのか、または既存の雑誌のブランド力を生かしウェブサイトの支持が続くのか、はたまた雑誌系ウェブサイトがアプリに進出していくのか。今後も、動向を見ていきたいですね。
「文春」を凌駕する「東洋経済」の圧倒的PV
日本ABC協会のデータを基に、2018年4~6月における自社PVと外部PV【※2】のトップ5を出してみた(※数値は4~6月の合計値ではなく合計値を3で割った1カ月の平均値)。
東洋経済オンライン/3.5億PV(自社PV53%)1日約1160万PV
AERA dot./2.3億PV(自社PV38%)1日約760万PV
週刊女性PRIME/1.7億PV(自社PV43%)1日約560万PV
女性自身/1.6億PV(自社PV40%)1日約530万PV
文春オンライン/1.5億PV(自社PV35%)1日約500万PV
(日本ABC協会データを基に著者算出。100万以下切り捨て。1日当たりのPVは1万以下切り捨て)
1カ月のPVでは、「東洋経済オンライン」が2位の「AERA dot.」に1億以上の大差をつけてトップとなった。1日当たりのPVでは、400万もの差がある。また、「東洋経済オンライン」は上位5サイトのうち、「全体のPVにおける自社PVの割合」も53%でトップだった。「Yahoo!ニュース」などの提携サイト先で記事が読まれるだけでなく、「東洋経済オンラインのサイトに行って読む」というファンも多かったと推測される。
ちなみに、同時期におけるトップ5のウェブサイトの母体ともいえる「雑誌」の発行部数を、一般社団法人日本雑誌協会のデータで調べてみた(※数値は4~6月に発売された1号あたりの平均印刷部数)
週刊東洋経済/92,917部
AERA/75,313部
週刊女性/195,875部
女性自身/340,225部
週刊文春/613,087部
(日本雑誌協会ホームページより)
オンラインでは強い「東洋経済」と「AERA」だが、雑誌の部数では上位3社に比べて1ケタ少なく、“文春砲”と呼ばれる「週刊文春」の圧勝だ。無料のウェブと有料の雑誌で、逆の結果になった。
「週刊女性」「女性自身」「週刊文春」はスキャンダルやゴシップなどに強みがあるのに比べ、「週刊東洋経済」「AERA」は経済、社会、ビジネス系だ。後者のいわゆる“堅い”読者のほうが雑誌を買う意欲、つまり情報に金銭を払う意欲がある印象だったが、結果は逆になっている。
ネットニュースを読む読者心理
雑誌系ニュースサイトにおいて圧勝となった東洋経済オンライン。その理由は、さまざまだろう。ついクリックしたくなるタイトルのうまさ、ひとつの記事を読んだ後に周囲に出てくる関連記事の出し方などの技術的な工夫や、時勢に合った著名な執筆陣などが理由として浮かぶが、さらに、このなかには「(ゴシップやスクープよりも)教養として、ためになるように思えるから」という読者側の気持ちもあるのではないかと思う。
私自身、かつて日がな一日ネットを見ていたことがある。その際、見た後で「なんでこんなことに時間を費やしてしまったのか」と一番後悔したのは、「発言小町」や「2ちゃんねる」などの掲示板サイトだった。嫌いな著名人の悪口や、反社会的であったり常識的でなかったりする考えの人が大勢にやり込められていくような“下世話なコンテンツ”は、最初は見ていて楽しいが、10分もすると、そんなものを見ている自分自身にうんざりしてくる。
芸能などのスキャンダルも「最初は楽しいが、食傷していく」という点は似ている。一方、東洋経済オンラインが得意とする知識、教養、経済、社会、ビジネスといった、いわゆる「お勉強系」は読後の後悔を感じにくい。お勉強は大義名分になる。しかし、だからこそ、逆に「見過ぎる」可能性もあるということは、特にお勉強系サイトが好きな人こそ心にとどめておいたほうがいいように思える。
ネット依存というと、だらしなさから来ている印象を持たれがちだが、むしろ「知識欲(ただし、実生活となんらリンクしないか、ほぼリンクしない)」によって、自分が思っている以上に日々の時間を奪われている人は少なくないはずだ。
もちろん目先の利益だけではなく、のちに生きてくる教養もある。しかし、今の情報過多社会は「知ること」に時間を奪われやすい。「知ることはいいことだ」という前提も、そうとは言えなくなりつつある。情報を知るつもりで見ているのに、むしろ情報に取り込まれ、動く機会を奪われているのではないだろうか。
後編では、引き続き岡田氏に、2018年4~6月を象徴するアプリを紹介していただく。
(文・構成=石徹白未亜/ライター)
【※1】
「〈雑誌発行社会員〉Web指標一覧 2018年4-6月」(日本ABC協会)
【※2】
自社PVと外部PVの違い…当記事が掲載されている「ビジネスジャーナル」も、さまざまなポータルサイトと提携している。「ビジネスジャーナル」で当記事を読んだ場合は「ビジネスジャーナル」の自社PVになるが、配信先のポータルサイトで読んだ場合は外部PVとしてカウントされる。なお、日本ABC協会の公開データにおける外部PVは、ABCレポート掲載協力に応じたサイト・アプリの合計PVになる。
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