確かに、その気になればスマホひとつで世界中からあらゆる品物を“お取り寄せ”できてしまう手軽さは、便利なことこの上ない。だが、そこには当然ながら、ネットのもつ匿名性を悪用した詐欺行為や、犯罪まがいのグレーな商売も横行。たとえそうでなくても、顔の見えない相手との取引では、大なり小なりのトラブルが往々にして起こり得る。
もちろん、サポート体制が盤石な日本国内であれば、誤発送や初期不良といったトラブルが起きても、迅速かつ丁寧な対応をしてくれる場合がほとんどだが、問題はその相手が海外の業者であったとき。
というわけで今回は、面倒にもほどがあった筆者の実体験を基に、海外サイトを利用したネット通販に潜むワナを紹介してみたい。
●住所・電話番号の表記がないサイトからの購入
筆者が遭遇したのは、妻が見つけてきた中国を拠点にしているとおぼしき、とあるスニーカーショップ。某ブランドの限定色スニーカーを欲しがっていた彼女が、方々を探してお目当ての品に唯一「在庫あり」表示をしていたのが、そのサイトだった。
よくよくチェックすれば、会社概要には電話番号の記載もなければ、住所は「東京都台東区」とあるだけで番地の表示もナシ。その上アドレスのドメインは「cn」で、日本語のところどころに簡体字もチラホラ……と、見るからにあやしさは爆発していたのだが、「買っていい?」と聞かれた時にチラ見しただけだった僕は、サイトそのもののデザインのショボさをやや不審に思いつつも、てっきり国内のショップだと思い込んで、なんの気なしに「いいんじゃない?」と答えてしまったのだった。
もっとも、商品をカートに入れて、購入をクリックし、届いたメールの指示どおりに代金を指定口座(なぜか某都市銀行の金沢支店だったけど)に振り込むと、「発送しました」メールの数日後には商品も手元に到着……と、そこまでの流れは実にスムーズだったから、いくらあやしげだとはいえ、比較的良心的なショップではあったはずだ。いざ箱を開けてみて、そこに入っていたのがお目当ての品であれば、あとから中国の業者だと知ったところで「中国も捨てたもんじゃないね」と思っていたに違いない。
が、しかし。
はるばる海を渡って届いたのは、注文したものとは似て非なる、まったく違う色の商品。すぐさま交換を希望する旨のメールを送って意思疎通を試みるも、そこでは
「返品ならなかなかできませんが、送料も高いし、お勧めいたしません。もし、今度の商品はお客様に合ったら、このままにしてくださいませんか。次回のご購入、絶対大割引できます」(原文ママ)
「お客様が返品したいなら、弊社は返金しますが、返品したら、弊社の規定にて、往復運賃がお客様が自弁しなければならないんです、国際郵便と関税が高いです、それは価値がないんです、今度はご迷惑をかけて、弊社はお客様に1000円を返金します、お客様が返品しなくてもいいんです。そうしたら、お客様が送料を負担しません」(同)
などという、カタコトの日本語によるニッチもサッチもいかない弁明との不毛なやりとりがリピートされるだけ。頼みの綱である連絡手段がメールしかないだけに、こちらも極力先方を刺激しないように言葉を選びながら粘ってみたものの、結局、交信はそのうち途絶え、あとには欲しくもない色のスニーカーだけが残されることになったワケだ。
●中国の商売人は、売った後のことはどうでもいい
そこで、中国の社会事情に精通する知人のジャーナリスト・山谷剛史氏に、このいかんともしがたい消化不良感をぶつけてみると、
「中国の商売人は、基本的に『万一ミスっても、客はいくらでもいるから、あまり痛くない』『壊れたら交換すれば文句は言われない』というスタンスなので、原因を突き止めたり、改善する努力はしませんよ。僕自身、中国に住んでいた頃に、中国製の外付けHD(ハードディスク)を買ったことがありますけど、そういった精密機器でさえ壊れたら交換すればいいと思ってる。中のデータや思い出がお金では買えないものだ、なんていう日本的な感覚を彼らははなから持ち合わせていないんです」
と、にべもない答え。しかも、日本と同様、ネット通販が大流行のかの国では、「通販サイトでニセモノをつかまされた客が、そのショップに低い評価を付けたりすると、売った側が低評価の嫌がらせに排泄物の詰め合わせを送りつけたりすることもある。業者の中には平然と逆ギレする輩もいるので、利用するときには細心の注意が必要です」(同)というから、なんとも恐ろしい。
ある日突然排泄物が届くことを思えば、いくら泣き寝入りを余儀なくされたとはいえ、僕はまだマシなほう。支離滅裂ながらも一応は遺憾の意を伝えてきたカタコト日本語の担当氏が、実はいいヤツなんじゃないかとさえ思えてくるほどだ。
●被害に遭っても、回復は難しい
ちなみに、今回のケースを法律的に解釈するとどうなのか? 消費者問題や国際的紛争に詳しい山脇康嗣弁護士の指摘はこうだ。
「今回の場合は、代金の振込先が国内の銀行とのことですので、まず論点となるのは実際の販売者とその口座の名義人が同一であるかどうか。調査した結果、仮に口座の名義人が日本の法人名義で、販売者も同一であるとされた場合には、理屈のうえでは、国内で起きる同種のトラブルと同じく、裁判を起こして勝訴すれば、口座を差し押さえするなどといったことは可能です。
ですが、その口座が不法に取得されたものであると判明した場合には、また別の問題が起きてきますし、そもそも『特定商取引に関する法律』によって表示が義務づけられている販売者の住所および電話番号をサイトに記載していないことからすると、販売者の実在確認をあえて困難にしていると考えられ、先ほどの調査も容易ではありません。ですから、こういったケースでは確実に財産を保全したうえで、被害を完全に回復するのはかなり大変です」