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野村直之「AIなんか怖くない!」

GAFA、個人の行動履歴を販売し“巨額利益を独占”する実態…無料で際限なく時間を奪う

文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員
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GAFA(写真:AFP/アフロ)

 本連載の前回(第3回)『怖いのはAIでなく人間…』をお読みになった方は、人間の悪意をそのままキャプチャーしてしまうAIがもたらす厄災をさまざま思い浮かべられたことと思います。

 架空の設定でよければ、エンタメテレビ番組、それもお子様向けの「仮面ライダーゼロワン」に出てくる具体例をお奨めします。ほぼ毎回、悪意に支配されたAIロボット「ヒューマギア」の痛々しく暴走する様子を、大袈裟過ぎるほどわかりやすく眺めることができます。この番組は、寿司職人、教師、役者、華道の師範、弁護士・検事・裁判官の働く様子を子供に見せ、SF的な設定でその働き方がどう変わるか(AI弁護士の頭脳に新証拠のデータが直接送信されるなど)を紹介しています。

 さらに、なにしろ主人公がAI開発企業の社長という設定ですから、起業、役員会決議、企業買収のイメージも簡潔に、描いて見せています。さらにさらに、長期的な顧客との信頼関係がお金を稼ぐのに大事なことや、コストを度外視してAIロボットを修理する動機を紹介し、その裏返しとして、経済合理性を視聴者に意識させています。これらを受け止められる子供にとっては、なかなか優れた教養番組といえるでしょう。

 今回は、実世界のAIビジネス応用の主要プレーヤーとなったGAFA (Google, Amazon, Facebook, Apple), BAT(Baidu, Alibaba, Tencent)など、個人の行動履歴や投稿情報UGC(User-Generated Contents) を囲い込んだ会社群による新独占=ニューモノポリーの脅威を取り上げます。

フリーミアム、アテンション・エコノミー

 10年ほど前に、“FrEE”という題名の書籍が一斉を風靡しました。既成概念にとらわれず、最も価値あるコンテンツや機能を無料で提供し、従来にないビジネスモデルで儲ける。その過程で既存事業者の収益構造を破壊するので、最初は利益率低い、もしくは赤字でも、いずれ独占的に高収益を上げられるといった趣旨です。

 置き場がないほどモノが溢れ、新製品を使いこなす間もなく矢継ぎ早に次の新製品が出てくるようになりました。それにつれて、アテンション・エコノミーという考え方が注目されてきました。これは、消費者の可処分所得でなく、可処分時間に注目するものです。誰しも平等に1年365日、1日24時間が与えられているところへ、広く浅く売り上げるのに、極力自社サービスに多くの注意を振り向けさせたい。消費者が見向きもしない(=アテンションを向けない)商品、サービスは存在しないも同然です。ですから、マーケティング関係者などはだいぶ以前から、アテンションを奪い合うのがB2C企業の競争だと気付いていたのかもしれません。

 Facebookに代表されるsnsでは、無料で自社サービスを使わせて、滞在時間を長くさせればさせるほど、たくさんの広告を見せ、収益を向上させることができます。あるいは、sns上の商品やサービスを購買させることができます(ソーシャルコマースと呼ばれます)。そして、他の競合サービスを締め出すために、ユーザーに時間を使わせれば使わせるほど、売り上げ、利益を独占する方向へ向かいます。

 広い意味では、終わりのないオンラインゲームなど、ユーザーにたくさん時間を使わせるサービスすべてがライバルです。読書の時間も、テレビ視聴の時間も蚕食されていきます。それどころか、SNSが面白くてたまらなくなれば、モノ製品を買い、使いこなす時間も減らしていくことになるでしょう。時間は有限なのですから。

タダほど高いものはないか

 SNSに限らず、商品を購入したECサイトにも、商品の感想などを頻繁に書き込む人がたくさんいます。彼らの書いた口コミを頼りに商品、サービスを選ぶ人はさらに桁違いに多いでしょう。製造者、サービス提供者の公式見解と違って、欠点や実際の使い勝手が書いてあったりして、とても役に立つからです。

 同様に、何かの使いこなし知識などのUGC(=ユーザが生成したコンテンツ)を囲い込んだ人力検索サイトも各国で提供され、ユーザーの役にたっています。書き込んだ人、UGCには通常報酬、対価は払われませんが、彼らも、自分の書いた量の何十倍、何百倍もの他人の書き込みを読んで恩恵を感じています。自分のコメントへの書き込みを、ファンからの感謝や賛辞と受け取り、それがますますたくさん書き込むインセンティブになっています。サイト運営業者は、多数のUGCから、AIを活用して消費者の好みの変化などを抽出し、製造者、サービス提供者にレポートを販売するなどで売り上げ、利益を上げます。

 ヘルスケア・医療系のサイトもあれば、無料で弁護士が法律相談に応ずるかのようなサイトもあります。専門医が自分の専門知識を駆使して、一般人向けに1~2時間もかけて熱心に執筆することがあります。その直接の動機が、わずか100ポイント(=100円分のサイト内コンテンツ利用権)だったりします。もちろん、困っている人を助けたい、役に立ちたいという動機のほうが強いでしょう。

 それにしても、一定規模以上に成長したUGC収集&提供サービスの支配力、独占力は強いものです。GAFAを4大世界最強企業と呼ぶ向きもあります。利用規約を熟読する人は滅多にいないので、提供したコンテンツ自体や、その利用行動の履歴が実質「販売」されていることに気付かないユーザーが多いでしょう。

個人情報を巡る闘い 欧州、米国では?

 GAFAに最も厳しく対抗しようとしているのは欧州です。2018年5月に EU一般データ保護規則GDPR (General Data Protection Regulation) を施行。GAFAらに人質にとられたかのような個人情報やプライバシーの扱いを厳しく規制し、違反には最高で世界収益1年分の4%と、グローバル企業では数百億円を超える制裁金で臨んでいます。実際、2019年7月には、顧客50万人の個人データを漏洩させたかどで、英ブリティッシュ・エアウェイズに1億8300万ポンド(約250億円:BAの世界収益1年分の1.5%)という巨額の金額の制裁金を科しました。

 GDPRでは、IPアドレスやCookieのようなオンライン識別子も個人情報とみなされます。ですので、欧州からアクセスされるあらゆるウェブサービスが対象に含まれ得ます。これらを含めた個人情報について、利用目的、第三者提供の有無、保管期間、不審点などの問い合わせ窓口等をわかりやすくユーザーに提示し、事前に同意を得なければならなくなりました。GDPR施行直前に起きた「フェイスブックの8700万人分データの不正共有」がもし対象になっていれば、最高限度「世界収益1年分の4%」が適用された可能性が高い、と筆者は考えます。

 米国では、GAFAを企業分割せよとの声が、2020年の大統領選候補からも聞かれるようになりました。自ら、彼らを規制し、分割すると宣言したのが民主党のエリザベス・ウォーレン候補です。アマゾンからは高級スーパーWhole FoodsとZapposを切り離し、GoogleからはDoubleClickとNestを、そしてFacebookからはInstagramとWhatsAppを切り離そうとまで具体的に提示しています。

 さらに、総売上250億ドル(約2兆7800億円)を超える「プラットフォーム提供企業」にはプレイヤーとしての参加を禁じることも提案しています。例えば、Amazonが別業者の売り上げ動向を克明にリアルタイムに知り得る立場を利用して、類似製品を自社ブランド“Amazon Basic”で安く提供したりすることを規制するものです。Appleについても、Apple TV+でサードパーティーの作品の視聴履歴、人気ぶりをAIで解析して、似たようなスリルの展開のオリジナル作品をつくろうとしたら抵触しそうです。Netflix(売り上げが現時点では少し不足)、Amazon Primeも同様です。

日本の「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」は実効性を発揮するか?

 日本ではどうでしょうか。公正取引委員会が行った実態調査によると、上記ウォーレン候補の提案と同様、プラットフォーム提供企業がプレイヤーとして参加する懸念も出されたといいます。こうした実態を踏まえて、日本政府は「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」を策定しました。ECプラットフォーマーに対し、手数料の一方的な引き上げなどができないよう、契約条件の開示、契約内容を変更する際の事前告知を義務付けるといいます。検索ランキング表示基準の開示や、アプリ内課金の不当な強制を禁止する内容も盛り込まれるようです。経産大臣への年次報告の義務付け、経産大臣による勧告や命令が規定されました。また、独禁法違反の疑いがあれば、公取委に対処を要請できるようにしています。

 ただ、法案作成に参加した内閣官房の担当者によれば、変化の速いデジタル市場では、すべての規制を国が決めるのでなく、自主的な取り組みを後押ししたい、とのこと。果たして法案の実効性が十分かについては、議論の余地があります。良心的な企業が損をして、規制の抜け穴を探すような企業が得をすることにならないでしょうか。

おわりに

 GAFAを分割したら4社から会社の数が増えて、それぞれが巨大化するだけだ、との批判もあります。プラットフォーマーへの規制は必要だし、有効でしょう。しかし、本格的な対策としては、個人情報の管理の機能を剥奪し、公的機関に担わせる、というくらいやらないと、歪みや富の独占を阻止できないような気もします。

 次回は、ニューモノポリー企業が世界のAI研究開発最前線でばく進する状況、その理由などを解説したいと思います。「AIの民主化」というキーワードが一時流行りましたが、その正反対の展開が起こる可能性があります。AIに特化したハードウェアや、学習用のビッグデータ(SNSやECサイト上の個人の行動履歴などはその典型です)の独占の可能性を具体的に論じたいと思います。

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員。


1962年生まれ。1984年、東京大学工学部卒業、2002年、理学博士号取得(九州大学)。NECC&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務をへて、法政大学大学院客員教授。2005年、メタデータ(株)を創業。ビッグデータ分析、ソーシャル活用、各種人工知能応用ソリューションを提供。この間、米マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所客員研究員。MITでは、「人工知能の父」マービン・ミンスキーと一時期同室。同じくMITの言語学者、ノーム・チョムスキーとも議論。ディープラーニングを支えるイメージネット(ImageNet)の基礎となったワードネット(WordNet)の活用研究に携わり、日本の第5世代コンピュータ開発機構ICOTからスピン・オフした知識ベース開発にも参加。日々、様々なソフトウェア開発に従事するとともに、産業、生活、行政、教育など、幅広く社会にAIを活用する問題に深い関心を持つ。 著作など:WordNet: An Electronic Lexical Database,edited by Christiane D. Fellbaum, MIT Press, 1998.(共著)他


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