今回は、競技場内外で使われるITの話題を集めてみた。今大会は特に、ものごとの変化を検知する「センシング技術」が活躍しそうだ。
●氷上のF1マシンに3つのセンサを搭載
ソチオリンピックの公式時計を担当するスイスの時計メーカー・オメガの新技術が話題になっている。最高時速150kmにも達する“氷上のF1”ボブスレーで、各チームのそりの前方2カ所に、同社が2年かけて開発した「オメガ測定装置(OMEGA Measurement Unit)」が取り付けられる予定だ。アンテナの付いた装置の内側には、速度センサ、3D加速度センサ、3Dジャイロセンサといった各種センサが内蔵される。速度センサは走行中のそりの速度、3D加速度センサは走行中の選手にかかる力の変化、そして3Dジャイロセンサは複雑な形状のトラックを走行しているそりの速度の変化をリアルタイムで計測することができる。
各国チームは、こうしたデータを分析すれば、どこにスピードアップの妨げとなる無駄な部分があるのかといった課題を見いだすことができるだろう。観戦者にとっても、従来の距離ごとに表示されるタイムとは異なるこれらのデータで、それぞれのチームの実力の違いなどを見ることができそうだ。
オメガは用意周到だった。2011年10月にはこの測定装置の開発に着手し、12年までに無線送信技術を高めてきた。そして同年から13年にかけての昨シーズンで、試作機の実証試験をこなしてきた。ちなみにボブスレーでは、男子4人乗りに日本代表が出場する。
●パナソニックは7000台の監視カメラ納入
一方、競技から離れたところで大きな課題になっているのがテロ対策だ。競技施設のあるソチとその周辺の街の中にも、さまざまなテロ警戒用のセンサが張りめぐらされているという。
ロシア連邦保安庁(FSB)から任命されてソチオリンピック期間中の安全警備を担当する現地ロシアの企業・RNTノースウェストは、放射線センサ、化学センサ、生物センサなどを街中に設置していると表明した。それぞれのセンサは、荷物の中身の判別、化学物質や毒物の検出などに使われる。
また、オリンピックの公式スポンサーの一社である大手電機メーカー・パナソニックが、合計7000台にも及ぶ監視カメラを競技施設や街中に設置している。
1月下旬に入り、国際オリンピック委員会(IOC)などには、テロの脅迫状が届いたと伝えられている。こうした監視システムが実を結び、テロを未然に防ぐことができるだろうか。セキュリティのためとはいえ、ソチの街では観客や市民が“監視”されながらオリンピック期間を過ごすこととなる。
●スクワット30回で地下鉄無料、センサが判定
最後に、ソチオリンピックを盛り上げる目的に使われているセンサの話題をひとつ。
モスクワの地下鉄ビスタボチナヤ駅では、スクワットを2分間以内に30回すると、地下鉄の乗車券1枚(30ルーブル、約90円)が無料になる企画があり、市民が挑戦している。挑戦者の体の上下運動を、券売機に付いた特別センサで検知するしくみだ。「おまけでいいよ」といった人間的な温情ジャッジメントが利かないのが特徴だ。
いまやITの運用は、オリンピック成功のカギのひとつとなっている。滞りなくオリンピックが終了すれば、それはセンサなどのITがうまく働いたということを意味しているといってよさそうだ。
(文=漆原次郎)