「手を触れずにスマートフォンが使える」
そんなSFのような世界も、もはや遠い未来のことではない。それを実現するのは、昨今あらゆる企業で研究が続けられている「脳波センサー技術」だが、ここ最近、その研究はさらに熱を帯びている。
目下、注目すべきは、どういった分野なのだろうか?
●世界中で研究が進む「脳波センサー」技術
経済が動く時には、いつも大きな「技術革新」がある。
近年でいえば「コンピューター」「インターネット」「携帯電話」、そして「スマートフォン」など。新たな技術が新たなマーケットを創出し、世の中は大きく動いていく。「スマートフォン」もすでに市場に普及し、世界的に見るとバブルは終わったといわれている。
では、次の技術革新はなにか? その答えは恐らく、ウェアラブルデバイスとともにやってくる「脳波センサー技術」であろう。
10月末、パシフィコ横浜にて「HUMAN SENSing 2013」という大規模な展示会が開催された。視覚、嗅覚など五感の拡張技術のデモが行われる展示会だったが、そこで突出して注目を集めていたのが「neurocam」という新アイテムだった。
これはセンサーを搭載したヘッドセットとiPhoneを組み合わせたシンプルなウェアラブルデバイスで、脳波で動く「necomimi」など脳波や生体センサーを使ったアイテムを手がけるneurowearの新プロジェクト。額のセンサーで取得した脳波から、その人が興味を感じたかどうかを察知、興味を感じた場面をiPhoneのカメラで自動撮影するというもの。このデモには、世界中から「すごい技術だ」など多くの反響があった。
こういった技術の研究開発は、なにもベンチャー企業だけのものではない。ほかにも、パナソニックヘルスケアが脳波計測による音量最適化を行う補聴器を販売予定、米トヨタが脳波でシフトチェンジできる自転車を開発中など大手企業の進出も多い。
●「脳波センサー技術」が一般向け商品に結びつかないわけ
ただ、脳波センサー技術の研究がいかに進もうと、一般向けの商品として成功させることは、極めて難しいのが現状だ。その理由の一つとして「脳波計を装着するという心理的な壁」が挙げられる。写真のように、脳波センサーはたいてい、頭上にデバイスを着けるというスタイルを取る。
米国の有名脳波企業ニューロスカイの国内代理店であり、自社で脳波センサーの開発製造、販売を行っているB-Bridge取締役の政吉貞雄氏も「脳波技術の商品化に伴う最大の壁は、ウェアラブルデバイスに対する心理的なアレルギー。特に日本では、『何かを身に着ける』という心理的な壁が高い」と語る。
これは現在、米Google社が試験的に運用している「Google Glass」も抱える問題だ。ウェアラブルデバイスへの心理的障壁は、作家でITジャーナリストの佐々木俊尚氏も自身のメルマガで言及している。確かに、「『眼鏡ではない何か』を頭部に装着することが当たり前」という風潮をつくり出すためには、もうしばらく時間がかかると考えられる。
●医療分野に積極的な動き
では脳波センサー技術が、まず影響を及ぼしてくるのは、どの産業分野だろうか?
「脳波技術と親和性が高いのは医療分野。本当に脳波技術が必要な人々に対しての研究が最も進んでいる」(政吉氏)