iPhone 5で激化するau対ソフトバンク戦争の舞台裏と行く末
●iPhone効果でソフトバンク優位?
9月21日のiPhone 5の発売を契機に、ソフトバンクとKDDI(au)の競争がにわかに激化してきた。iPhone 4までは、iPhoneを販売する通信事業者(キャリア)はソフトバンク1社の独占だった。その構図が崩れたのは、2011年のiPhone 4Sの発売からだ。
これは、業界にとって大きな事件だった。iPhone人気で順調に加入者を伸ばしていたソフトバンクにとっても、強力なライバルが出現したことになった。当時、ソフトバンク社長の孫正義氏はマスコミに対し、「100万規模のiPhoneユーザーが解約してもおかしくないと思った」と語ったが、そんな心配をよそにソフトバンク版iPhone 4Sの予約数は過去最高を記録、KDDIにとっては厳しいスタートとなった。
もちろん、ソフトバンクもKDDIもiPhoneだけで商売をしているのではない。他のスマートフォンも含めたシェア争いの構造がある。ちなみに、携帯電話業界のシェアトップはNTTドコモ、次いで、KDDI、ソフトバンクと続く。しかし、契約者数の推移を見ていくと、確実にソフトバンクの数字が年々上がっており、KDDIとの差は小さくなってきている。これは、iPhoneユーザの増加によるところが大きいだろう。
せっかくiPhoneの販売権を獲得したKDDIにとって、これはおもしろい話ではない。しかし、KDDIには他のキャリアにはない秘密兵器がある。それは、下り40Mbpsという高速データ通信ができる「WiMAX」というサービスである。KDDIは08年に100%出資の「UQコミュニケーションズ」という会社を立ち上げ、WiMAX事業を開始した。
この事業化の成功を成し遂げたのは、現KDDI社長・田中孝司氏であった。同社は他キャリアより遅れつつもスマートフォンの販売に積極的に取り組み、iPhoneと共に、3G回線とWiMAX回線を使えるデュアルバンドのスマートフォンを多数投入してきた。このように、これまでKDDIはLTEに消極的であるように見えた。
●iPhoneのLTE対応がすべての始まり
の高速データ通信規格には対応していない
だが、今年は違った。初めてLTEという規格に対応したiPhone 5が発売されてから、田中社長はさまざまなIT系メディアに登場し、かつてない強い調子で、自社のネットワークの優位性を果敢にアピールした。LTEは、従来の3G通信よりも高速な規格で、下り最大75Mbpsで通信が可能だ。ただし、まだ始まったばかりのサービスであり、利用可能エリアの拡大はこれからだ。
ちなみに、iPhoneは世界100カ国以上(12年末予定)で販売されるワールドモデルである。そのiPhoneが、iPhone 5でLTEを標準搭載してきたことは、全世界のキャリアの高速データ通信規格がLTEで塗りつぶされようとしていることを意味する。もちろん、日本も例外ではないだろう。
KDDIがiPhoneで勝負をかけるなら、これまでのWiMAX路線をLTE主導に切り替えることが必要、と考えるのは自然だ。
2012年の冬モデルからはWiMAX対応機種を1台も出さず、全機種をLTE対応にした