iPhone 5で激化するau対ソフトバンク戦争の舞台裏と行く末
●技術的優位性をアピールするKDDI
技術的な詳細説明は割愛するが、具体的な内容としては、KDDIは割り当てられた周波数の関係で3G通信を犠牲にせず、ソフトバンクよりも有利にLTE化を進められる点や、ソフトバンクよりも基地局の性能が優れている点、LTEと3Gエリアとの切り替えを高速で行う技術「Optimized Handover」について、KDDIだけが完全対応している、といった点だ。
しかし、この説明には謎もある。
例えば、基地局については、ソフトバンクもKDDIと同様の方式でサービスを提供していることを公式に明らかにしている。実際のところ、基地局は規模や地域特性によってさまざまな設備を使い分けるのが通例であり、ソフトバンクの基地局がKDDIよりも劣っているという証拠はない。また、「Optimized Handover」については、NTTドコモが自社端末が対応していることを指摘し、KDDIはその誤りを認めている。しかも、iPhone 5ではそもそもこの機能に対応していない(他のスマホのみ対応)ことを明言していなかったため、iPhoneユーザの混乱も生じた。
※http://www.kddi.com/corporate/news_release/2012/1017d/index.html
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これまでにKDDIが表明してきた自社のインフラの優位性については、正しい部分も多々ある。長年業界第2位の老舗通信キャリアとして日本のバックボーンを支え、高品位なネットワークを培ってきた実績は評価されるべきだろう。LTEへの移行も、周波数帯の関係でソフトバンクよりも有利な部分はあるだろう。だが、KDDIはなぜ今、ここまで勇み足とも思えるほどの強いアピールをを行っているのだろうか?
●買収によって巨人化するソフトバンク
もっさりしていたWebブラウジングも、メールの添
付ファイルも高速に処理できる。しかし、これは高
品位なネットワークがあってのことだ
その答えの一端を垣間見せる「事件」が起こった。
10月1日に突然発表された、ソフトバンクのイー・アクセス買収である。イー・アクセス(旧イー・モバイル)は日本最後発の通信キャリアとして05年に設立され、戦略的な価格と先進的なスペックで日本の3G高速通信を牽引してきた。しかし、設立以来黒字化は達成できず、厳しい経営状況が続いていた。
イー・アクセスはiPhone 5が対応する「バンド3」といわれる周波数でサービスを行っており、LTE化を進めている。このリソースをソフトバンク、KDDIが密かに狙っていたとしても決して不思議ではない。将来的にLTE化を有利に進められるからだ。また、経営再建中のPHS事業者、ウィルコムの契約者数とイー・アクセス(370万人と推計)の契約者数を合わせると、ソフトバンク傘下の契約者数の総計は現在のKDDIの契約者数を抜いて、業界第2位に躍り出る計算になる。まさに、KDDIにとって脅威である。
このように、iPhone 5のLTE対応で両社の競争は激化した。保有する周波数帯域で強みを見せるKDDIと、イー・アクセスを武器に攻めのLTE化を推進しようとするソフトバンク。両社の対決は、我々ユーザにとって歓迎すべきものだ。この競争が、両社ともに日本のLTE化、ひいては、高速バックボーンの増強を促し、より快適でつながりやすいネットワークになることが期待できるからだ(もっとも、周波数は総務省が公平に割り当てるものであり、このような形で周波数を獲得するのは公正ではないとの指摘もある。これについては、ソフトバンクの今後の対応が問われる)。