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小林敬幸「ビジネスのホント」

30年後、人工知能が人類を駆逐する?AIの進化で消える仕事と残る仕事

文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者
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 また、人間に共通する利他行動や道徳心などは、そういう遺伝子を持った人で構成される社会が続いてきたから存在する、ともいえる。AIがいくらネット上の膨大なデータを読み込んだとしても、このような生存の本能をすべて獲得することはできない。

 そもそも、AIにとって持続のために重要なのは、食事や蛇ではなく、電源やネットの接続状況だろう。持続のための方法を学習しても、例えば「停電」に過敏に反応するような、人間とはまったく違う「本能」が生成されるに違いない。

 この違いは、後述する「人工知能ができる仕事とできない仕事」にも関係してくる。

AIが提供する「ぶりっこ的あざとさ」

 人間は、顧客のニーズを探ったり、組織を運営する時、コンピュータほど多くのサンプルデータを参照することはできない。しかし、「自分がその状況に置かれたらどう行動するか」ということは考えられる。

 つまり、その場でサンプルデータを一つ生成できるということで、人間は脳の中に、人間行動に関するデータ生成器を持っているのだ。この共感力ともいえる力で、人間は社会に適応したり、社会全体を円滑に運営することができているのだろう。この共感力は、人間がみんな同じあるいは似た本能を持っている、という前提に基づいている。

 AIは人間の本能を持っていないため、この共感力を持つことはできない。AIがやっていることを人間に例えると、「自分はまったく共感できないが、経験上、こうすれば相手が喜ぶのでやってあげている」という感じだろう。

 話はそれるが、人間同士の身近な例でいえば、男女の関係などがそれに近いかもしれない。なぜ相手が喜ぶのかはよくわからないが、そうすると喜ぶのでしてあげる。記念日を覚えている、髪型が変わったことに気づいてあげる、などがそれだ。

「何がいいのかわからないけれど、男性に受けがいいからこの仕草や服装をする」というのが、いわゆるぶりっ子だ。未来のAIが行うであろう「おもてなし」も、「ぶりっ子的あざとさ」に行き着くのではないだろうか。それは現在、EC(電子商取引)サイトなどで出てくる「おすすめ商品」や、ターゲティング広告を目にした時の感覚に近いものがある。

AI研究のこれから

 AIがビジネスに与える影響に話を戻すと、すぐに考えられるのは、各種異常の検出である。機械の故障の予兆をとらえる、万引きを発見する、医療用画像からがんを見つける、などだ。漏水の場所を音で探し当てるという名人芸のような作業も、AIで代替できるかもしれない。

 また、「知的単純労働」と評される仕事も、大半は代替可能だろう。士業の事務、融資や預金対応などの銀行業務、役所の書類受付業務などだ。テレビのスポーツ中継から選手の背番号を読み取り、該当データを抽出するといった技術は、すでに実現している。こういった働きは、アナウンサーや新聞記者、雑誌の編集者などの仕事もサポートするだろう。作家の村上春樹氏が「文化的雪かき」と表現したフリーライターのような仕事も含まれる。

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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