しかし、最大の懸案である慰安婦問題をめぐり、両国の主張には依然として大きな隔たりがあります。
尹長官は会談後、「慰安婦問題の解決が最も喫緊の課題」としながらも、日韓国交正常化50周年に当たる今年中に決着をつけたいという意思が双方にあると語りました。
また6月23日、韓国外交部の魯光鎰(ノ・グァンイル)報道官は記者会見で、「韓国は日韓首脳会談にオープンな立場である」としながら、「会談を実現するためには条件がある」と述べ、慰安婦問題で日本が韓国国民、被害者、国際社会が受け入れられる解決策を提示することを要求しました。さらに、8月に安倍晋三首相が発表する予定の戦後70年談話について、「河野談話など、歴代内閣の正しい歴史観を引き継ぐべき」と述べ、安倍首相に歴史認識を改めるように牽制しています。
国家間に序列をつける韓国
韓国が、「オープン」と言いながら条件をつけるのはなぜでしょうか?
それは、日本側がその条件を簡単にのまないことを承知した上で、「韓国側は受け入れる態勢があるのに、日本側がそれに応えないから会談が実現しないのだ」と国際的にアピールしたいからです。
無条件かつ対等な立場で会談に臨まないのには理由があります。韓国の国民は、日本を韓国より立場が下だと考えています。これは古くからある「中華思想」に基づくもので、一部の先進的思考の持ち主を除いて、圧倒的多数の考え方です。おおまかに解釈すると、中華思想は中国を「天子」、すなわち世界の中心と考え、そこから距離が遠いほど立場が低くなるとするものです。
特にアジア圏に対しては中華思想を当てはめようとしており、中国が長男、韓国が次男、日本が三男、台湾が四男という概念は韓国全体を支配しております。そして、儒教の影響により、年功序列の価値観が日本よりもはるかに強い韓国においては、兄弟の序列は絶対的なものです。
韓国は、それを私人間のみならず、国家レベルでの付き合いにまで求めているのです。したがって日韓が対等な立場で付き合うことを韓国政府は受け入れないでしょうし、韓国国民も受け入れないでしょう。日本が膝を屈めて「兄」である韓国を敬わなければ、良好な関係を築くことはできないというのが韓国の本音なのです。
例えば、戦後の賠償問題に関して1965年、基本条約にて両国の請求権は「完全かつ最終的に解決した」と宣言されました。日本側としては、それをもって戦争問題はクリアになり、以降は対等な関係であると考えます。しかし、韓国は対等であること自体が受け入れられないのです。そこで、「慰安婦および強制徴用については、人道的な問題なので条約は当てはまらない」として、さらなる謝罪と賠償を求めるようになったのです。
韓国の初代大統領である李承晩は、日本統治時代の朝鮮を容認する思想を徹底的に排除しました。日本を擁護するような発言をした人物を投獄や処刑したのです。
李承晩失脚後に大統領となった朴正煕は、独裁体制を敷く一方で開発独裁による経済発展を推し進め、「漢江の奇跡」と呼ばれる飛躍的な発展を遂げることに成功しました。このように韓国経済に多大な功績を挙げたにもかかわらず暗殺されたのは、日本統治時代を容認し、親日政策を取ったことが最も大きな要因といわれています。朴正煕の娘である朴槿恵大統領が、安易に親日政策を取れない理由もここにあります。
韓国としては、国際的立場や経済的観点など、総合的に考えて日本と親密な関係を築くことがよいとは知りつつも、「兄」としてのプライドが邪魔して歩み寄れないのです。これは韓国国民の価値観の根幹にも携わるものであり、「近くて遠い国」であるゆえんとなっているのです。
(文=林秀英/ジャーナリスト)