05年、外国人労働者100名が「労働基本法の保障」と「労働条件の改善」を要求し、外国人労働者たちが加盟する労組の設立を政府側に求めた。ただ当時の雇用労働部(日本の厚生労働省などに相当)は、「不法在留している外国人に組合員の資格はない」とこれを一蹴。その後、権利擁護を求めた同団体の委員長たちが相次いで強制退去となる中、組合承認の運動が続けられた。そして15年6月に、韓国・最高裁判所が「不法滞在外国人労働者も労組を設立することができる」という画期的な判決を下し、8月末に同労組が正式な承認を受けることになった。
承認後、同労組の代表を務めるウダヤライ委員長はメディアの取材に対し、「韓国全国で賃金未払いや暴力、人権弾圧に苦しんでいる外国人労働者の奴隷の鎖を断ち切らなくてはならない。外国人労働者に、合法的な労組に加入することで企業側と交渉できるということを広く知らせたい」と答えている。
15年1月現在、韓国では約56万人の外国人労働者が働いている。1988年のソウル五輪以降、合法および不法に滞在する外国人労働者が徐々に増え続けているが、ここ十数年はさらに急増している。そんな社会的な背景の中、外国人労働者に対する差別、暴力、賃金未払いなどが社会的問題として浮上してきた。
韓国の労働者は日本の労働者と同様、世界的に労働時間が長いことで有名だが、そんな韓国人労働者より外国人労働者は月間100時間あまり長い労働を課されているという実態調査がある。また、韓国の農場や工場で働く女性外国人労働者全体の内、約10%が性暴力やセクハラを受けたことがあるという統計も明らかにされた。
泣き寝入りさせられてきた外国人労働者
韓国・ハンギョレ新聞は、カンボジアから韓国の農場に働きに来た20代女性の体験を次のように報道している。
「カンボジアから来たボパさん(仮名)は、農場で働きだして2日後に農場主に呼び出され、服を脱ぐように強制された。それを拒否すると、農場主はボパさんが生活している寄宿舎まで押しかけ性的関係を強要した。その後、ボパさんは農場にいられなくなり、トラブルを抱えた移住女性たちが駆け込む団体に身を寄せざるを得なくなった」
ボパさんのような被害を挙げていけば枚挙に暇がない。問題は、韓国人雇用主の側が「強制退去」などをチラつかせ被害者の口を封じてしまうため、被害状況が発覚しにくくなっている点だ。しかも、正式にビザを持って働いている場合でも、雇用主の許可がなければ職場を変えることができないため、被害者たちは泣き寝入りを余儀なくされる。さらに悪質な場合、凶器などを持ち出し露骨に脅迫することもある。実際に、未払い賃金の支払いを求めたバングラディッシュの男性外国人労働者が、韓国人雇用主に鉄パイプで脅迫される映像がテレビで報道されたこともある。
今回、直接話を聞かせてくれた外国人労働者たちは、韓国での境遇について次のように明かす。
「あてがわれた寄宿舎と職場以外の外出が徹底管理されている。休日もほとんどなく、よくわからない名目で賃金が差し引かれるのは日常茶飯事。手元に残るお金はほんのわずか」(20代・フィリピン人女性)
「韓国は外国人に対して差別が激しい。いつかお金が貯まったら、日本の名古屋か沖縄あたりに店を出すのが夢」(40代・トルコ人男性)
韓国では、外国人労働者は犯罪などの治安問題と絡めてクローズアップされることが多いが、韓国人雇用主が自らの利益のために外国人を酷使しているという実態のほうが根は深い。しかも、その実態が社会的に隠蔽されようとしてきたふしがある。韓国政府も安い労働力を欲しがる企業の要求に沿って制度を整備してきた歴史があり、相次ぐ被害には目をつむってきた。今回の労組結成は、そんな外国人労働者の境遇に変化をもたらすものとして注目を浴びている。
ちなみに日本当局に確認したところ、「韓国の労働組合は届け出制になっている点で日本とは異なる。日本の労働組合は届け出る義務がそもそもなく、法人設立の際にのみ審査がある。その審査の際にも代表者、構成員の国籍がどこであるかは基本的に問われない」という。仮に不法滞在労働者が所属していた場合は、他の関連法との兼ね合いで処罰が決まるそうだ。
(取材・文=河 鐘基)