逆に、都心回帰に後れを取ったために、苦境に陥った大学も散見する。代表例は中央大学で、この点についてはすでに『早慶明治も戦々恐々!? 中央大学都心回帰で他私大が大打撃?』で詳しく述べたので、ここでは多くは触れない。ただその後、都心回帰積極派の久野前理事長が解任されたため今後どうなるかだが、同大学関係者は「新理事長の足立(直樹、凸版印刷会長)さんも、理事会で都心回帰を決めたときのメンバーですから、政策が変わることはない」と語っている。
ただ中央の場合、問題は駿河台の旧校地を手放しており、用地買収から始めざるを得ず、資金手当ての問題を含めて回帰決定までに時間がかかることが予想される。その点で、この間の競争に後れを取るのではないかと心配する同大関係者は少なくない。
●慶應SFCの現状
都心回帰の動きの中で、もうひとつ注目されるのが、かつて大学評価の地殻変動の震源地となった慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC、神奈川県藤沢市)の総合政策、環境情報の2つの学部の今後である。現在、他大学で学長を務める同大学の元教授は次のように痛烈だ。
「SFCの2学部の凋落は目に余る。大きな声では言えないが、いまや内部進学(付属高校からの進学)希望者がほとんどいなくなっている。偏差値も下がり気味だ。学部が一貫した学問体系でできておらず、卒業しても何が専門か答えられないことも弱点で、企業からの評価も高くない」
他学部の学生からは「何しろ藤沢のチベットと言われるほど僻地だから、受験生が行きたがらないのも当然だ。他学部学生との交流も難しいし」などという声も聞こえてくる。
中央にしてもSFCにしても、日本の大学にしては文教の場として理想的な環境と設備を持ってスタートしたはずだが、都心回帰の嵐の中で、次なる対策が不可欠となっていると言っていいだろう。
いずれにしろ、受験生の大学・学部選択の主要因の一つが都心回帰であることははっきりしている。そのことに絡んで大学の明暗が分かれているわけで、そうした現実が各大学の都心回帰の動きを突き動かしていると見て間違いなく、それだけに今後とも追随する動きはやむことはないと見てよい。
(文=清丸恵三郎)