個人事業主の苦難は、運送事業者にとどまらない。芸能やメディアなどの業界で、個人で仕事を請け負うフリーランスも同様だ。内閣府によると、全就業者に占める割合は、本業のフリーランスが約3%、副業を合わせると5%ほど。本業フリーランスは、6.9%を占める米国の4割程度だ。「個人の能力・技能を発揮できる専門職」とうたわれ、フリーランスへの関心は高まる。
だが、仕事場では同様に弱い立場につけ込まれ、“契約なき慣行”やハラスメントに苦しめられる。日本俳優連合など3団体が9月に初めて発表したフリーランスへのハラスメント実態調査(対象1218人)によると、6割がパワーハラスメント、4割近くがセクシャルハラスメントを受けたと回答。その約半数は、被害を誰にも相談できずに心に傷を抱えていた。ほとんどは、仕事の発注、配役や出演を指名する側からの振る舞いだが、やるほうは「よくあること」と加害を自覚していないケースが多い。
フリーランスの弱い立場が浮き彫りに
被害者の自由記述回答を見ると、生々しい実態が浮かび上がる。一部を引用すると――
女優・30代「マネージャーに脱げないと仕事がない(私は脱げないと宣言していた)と言われた」
女優・30代「キャスティング権を持つ男性に逆らえず、性的関係を強要された」
女性演奏者・30代「性的交渉を強要される。その上で公表したら仕事がなくなるのは当然と言われる」
女優・20代「主催者の自宅で稽古をすると言われて行ったら、お酒を飲まされて性的な行為をさせられた」
相談しても解決しないと思った理由について――
女優・30代「よくあることとして笑い話になっている空気が充満しており、業界全体の認識が変わらなければ解決しないと感じたから」
女優・20代「精神的に参っていて言う勇気もなく、うまく伝えられる自信もなく、何よりその事実を口にするのが嫌で仕方なかったから」
女優・30代「パワハラ、セクハラは当たり前のものであり、多くの人が麻痺しています。いけないことだということを知らない人が多いので、相談するに至りません」
女優・10代「フリーで役者で未成年というのは最も弱い立場だと感じます。我慢しないと干されるという恐怖感があるのだと思います」
対策の提案について――
男優・40代「(ハラスメント、ヒエラルキーによる差別を防ぐには)契約書によって厳密化して(当事者)双方に意識させ、契約の内容に盛り込むことがまずは大前提だと思います」
女優・40代「手軽なメール相談窓口が必要。業界を熟知している人が相談員として登録し、業務を遂行するような団体を“業界関係者で設立”するべきだと思います」
女性演奏家・30代「少ない人数で少ない仕事を回していることが問題。演奏家という仕事を国家資格にして、演奏活動には資格が必要、かつハラスメントなど不適切なことがあれば資格剥奪され演奏活動が不能になるなど、法整備もしてほしい」
男優・30代「芸能系は特にブラックであることが当然と思っている人が上に立っています。それを打破できない限り、現状は変わらないと考えます」