今月、自民党・丸山和也参院議員の2つの発言が批判を受け、参院憲法審査会の委員を辞任した。野党だけでなく、自民党の二階俊博総務会長や公明党の漆原良夫中央幹事会会長からも批判された。
問題となったひとつ目は「黒人奴隷」発言だ。丸山議員は、「(米国では)かつて奴隷として差別されていた黒人から大統領まで登場した。オバマ大統領の誕生はその時代の米国人には想像もできないこと」と言っただけのこと。その上で、米国を「ダイナミックに変革をしていく国」とほめている。
リンカーンの奴隷解放宣言まで米国には黒人奴隷制度があり、地域によっては人種差別は今も根強く残っていることは事実である。この発言により丸山議員は「人種差別発言」と批判されている。「問題発言」と報じたマスコミもあるが、具体的に何が問題なのかを指摘していない。
実際の発言は、「黒人が大統領になっているんですよ。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ。はっきり言って」と、センテンスが極めて短い。なんとなく衝撃的に聞こえてしまう。
コラムニスト・小田嶋隆氏は丸山バッシングに対する感想を2月19日付日経ビジネスONLINE記事で次のように書いている。
「『黒人の血を引く』『奴隷ですよこれは』といったあたりの言葉の選び方に無神経さが露呈している。(中略)とはいえ、発言の内容自体は、全体の文脈から言って、人種差別意識に根ざしたものではない。大統領や米国に対して悪意のこめられた主張でもない。米国の自由さと変化のダイナミックさを強調する話の流れの中で、例として引いた奴隷のたとえが、結果として無神経なお話だったということに過ぎない」
人種差別や人権意識を問題にするなら、自民党には糾弾されるべき人はほかにいくらでもいる。たとえば、麻生太郎副総理兼財務大臣もその1人だ。
2001年3月12日、麻生氏は当時所属していた河野グループの会合で、野中広務氏(元幹事長、元官房長官)の名前を挙げながら「あんな部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」と発言したとされる。この事件については、魚住昭氏の『野中広務 差別と権力』(講談社)に詳細な記載があり、当時、「週刊現代」(同)などいくつかのメディアも取り上げているが、取材の中で麻生氏は否定している。しかしながら、麻生氏が名誉毀損でどこかを訴えたり正式に抗議したりという話は聞いたことがない。
この年は森喜朗内閣が退陣して、4月に自民党総裁選を行うことが決まっていたが、与党内の一部から後継首相に野中氏を推す声が高まっていた。結局、野中氏は出馬せず、派閥会長の橋本龍太郎氏を担ぎ出したのである。