――東大の入試問題には、ほかにどのような特徴がありますか。 たとえば昨年は、「下の絵に描かれた状況を簡単に説明したうえで、それについてあなたが思ったことを述べよ」としたうえで、「片目をつむって舌を出す自分が映った手鏡と、それを持って驚いた表情を浮かべている自分」のイラストを示した英作文の問題が話題になりました。
富田 東大の英作文には、「二項対立」の問題が出ます。二項対立とは、ひとつの問いに対する結論が複数ある問題のことです。昨年のイラストの問題を例にすると、人間は自分にはコントロールできない「何か」をとても不気味に感じますよね。それをなんとかして説明したい、というのがこの問題の出発点です。理解しがたい状況に直面したとき、どう対処するのか。「君は一体何者か」というテーマが隠されています。
実際の受験生たちの解答をみると、「兄弟が仕掛けたイタズラだった」という合理で説明するものもあれば、「我々の知らない自分が裏の世界にいて、何かのはずみでそれが出てきた」という不合理を受け入れるものもあります。もちろん、採点の基準は英語がしっかり書けているかどうかなので、いってしまえば内容はあまり関係ありません。
ただ、この問題は、近年よく耳にする「答えのある問題よりも、答えのない問題が大切」という世の中の意見に対し、「では答えのない問題を出されたら、あなたはどうしますか?」という問いを投げかけているとも受け取れます。他大学に比べて、社会的メッセージ性が強いのも東大入試問題の特徴です。
東大からのメッセージ
――東大の入試問題がそうした特徴を持つ背景には、何があるのでしょうか。
富田 過去に小学校の教科書で円周率が「3」になることが社会的に注目されていたとき、東大数学の入試で「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」という問題が出され話題となりました。東大がこのようにメッセージ性の強い問題や、応用力を問う問題を出題する背景には、物事を研究したり考える人間を養成したいという目的があるはずです。これから流動化していく時代のなかで、固定観念や目先の利害にとらわれず、目で見たものを疑い掘り下げて考える学生を求めているのは、私が受験生だったときから変わっていないと思います。東大の問題にある程度太刀打ちできるようになると、「なるほど、こういうことを考えさせるのか」と、面白さを感じるようになります。