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座間9遺体事件現場の部屋も“お祓い”した宮司の「事故物件お祓い日誌」

文=菅野久美子/ノンフィクション作家
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座間9遺体事件現場の部屋も“お祓い”した宮司の「事故物件お祓い日誌」の画像1
照天神社の宮司、金子雄貴さん

 神奈川県相模原市にある照天神社の宮司、金子雄貴さん。彼は、さまざまな訳あり物件のお祓いに15年以上向き合ってきた。その数、1000件以上。事故物件専門、金子宮司の知られざる世界をご紹介する。

ラブドールの魂入れ

 ある日、金子宮司のもとに男性から一本の電話が入った。

「うちのラブドールに、御霊入れをしていただけませんか?」

 神道(しんとう)では霊璽(れいじ)に故人の御霊(みたま)を移して、家庭などで祀ることにより、故人や先祖はその家の守護神となり子孫を守るといわれている。ちなみに、人形供養などの依頼はよくあるが、ラブドールに御霊入れはいまだ経験がなかったという金子宮司。男性は他の神社で断られて困っているという。金子宮司は一般的な宮司と違って、性に対して偏見などまったくないし、何よりも男性は困っている。金子宮司は、「それならば」と、すぐに引き受けることにした。男性はラブドールを助手席に乗せて連れてきた。

座間9遺体事件現場の部屋も“お祓い”した宮司の「事故物件お祓い日誌」の画像2
『超孤独死社会特殊清掃の現場をたどる』(菅野久美子/毎日新聞出版)

「いや~実際に見たけど本当に人間みたいだね。触らせてもらったら本当に人の肌だった。びっくりしたよ。おっぱいも触っていいですかって、どうしても気になって触らせてもらったよね。そしたら、人間の女性と変わらない触感で、本物そっくりで感動したね」

 依頼主の男性は「僕、会社行くときはパソコンの前に座らせとくんですよ」と言って、ラブドールに愛おしそうなまなざしを送ったという。

 ちなみに、魂入れの儀式ののち、依頼主からは飛ぶように喜んでもらえて、「この神社をラブドールの聖地にしましょうよ!」と言われたという。いつか、照天神社にラブドールたちが大挙して押し寄せる日も近いかもしれない。

 ラブドールといえば、金子宮司にとっては、もうひとつ、忘れられない現場がある。関東某所のアパートの自殺現場にお祓いに訪れたときのことだった。

「その部屋はワンルームだったんだけど、扉を開けると雨戸が閉まって中は、真っ暗だったの。よく見るとなんと部屋の片隅に、髪の長い女性が座っていたんだ! 思わず『ぎゃ~!』と叫んじゃったよね」

 しかしこう見えても金子宮司は、宮司と同時にボクシングの経験者でもある。毎朝5キロのジョギングをし、ウエイトトレーニングもしている。ただで引き下がるわけにはいかないのだ。「こうなったら、お化けだろうが人間だろうが、闘って捕まえてやろう」と奮起したという。日頃のボクシングの練習を思い出し、女性の頭に一発バーンとジャブをかました。すると、思ったよりも手ごたえは軽く、ストンとあっけなく女性は倒れた。電気をつけて、よく見ると、なんと倒れたのは、人間ほどのサイズのラブドールだったという。自殺した男性は、最期までラブドールを伴侶にして、まるで彼女に見送られるようにこの世を去ったらしい。なんとも切ない限りだ。

「いやー、あの瞬間は、本当に怖かったね! やっぱり心身共に日頃の訓練って大事だよね」

 百戦錬磨の金子宮司、怖いものはないのである。

座間殺人事件のお祓い

 宮司というだけあって、有名殺人事件のお祓いの依頼もある。金子宮司が手掛けたお祓いのなかで最も有名な事件は、座間9遺体事件だ。2017年、行方不明だった当時23歳の女性を捜索中に9人の遺体が見つかったという超有名なSNS連続殺人事件である。その後、犯人とされる男の逮捕後尋問にてAの単独犯だったことが判明し、その猟奇性が話題となった。事件に利用されたTwitterでは事件後に利用規約変更がなされるなど、世間に大きなショックを与えた平成の重大事件となった。

 当時、金子宮司は、マスコミが取り囲み騒然とするなか、殺人現場となった物件で、たったひとり、お祓いに挑んだのである。

「とにかく報道陣に囲まれて、ストロボ攻撃には参ったよね。マイクが顔に向かってくるんだもの。『感想は?』とか聞かれて困っちゃったな。実際に祭壇を設置したのは部屋の外だったよ。外には報道の方々が25名くらいいたかなぁ。部屋の中は、臭気や霊気は一切なかったよ。逆に、整然としていた感じが妙に頭に残っているよね。いつもの生活が、死によって突然断たれたという表現が正しいんだろうね。孤独死現場のような不潔、焦燥感はまったく感じなかった。やはり周りに気づかれないようにして周到な計画性がお部屋からも垣間見えたよね。いつもの現場とまったく違う異様な感じという意味では、印象的な現場だったね」

 その翌日、金子宮司の顔がスポーツ紙やテレビに出たのはいうまでもない。

 ちなみにこの物件は、事故物件公示サイト「大島てる」にも掲載され、しばらくは月額家賃1万9000円という破格の金額で貸し出されていたことが話題となった。このように金子宮司のもとには、ありとあらゆる事件や自殺、孤独死などの物件のお祓いの依頼が不動産業者から毎日ひっきりなしに寄せられている。

 事故物件は、心理的瑕疵物件と呼ばれ、多くの人に敬遠される。例えば、大家にとっては資産価値が落ちてしまい、死活問題になりかねない。しかし、神主さんがお祓いしたというと、ホッとして次に入る入居者も多いのだという。金子宮司は、お祓い証明書も発行している。多くの「困っている人」のために、金子宮司は今日この瞬間も、さまざまな事故物件を飛び回っているのだ。

(文=菅野久美子/ノンフィクション作家)

菅野久美子

菅野久美子

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。ノンフィクション作家。著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)『アダルト業界のすごいひと』(彩図社刊)『エッチな現場を覗いてきました!』(彩図社)がある。

Twitter:@ujimushipro

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