2017年10月、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)が改正され、新たな住宅セーフティネット制度が始まった。高齢者や低額所得者、子育て世帯等の住宅確保が難しい人たち(住宅確保要配慮者)の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度で、登録した物件については、空き家の改修工事や家賃補助といった支援を国、自治体から受けられる。
人口減が叫ばれる日本は今後、ますます高齢化が進んでいくと推測されている。国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2013年1月推計)によると、65歳以上の単身世帯は2010年の498万から2035年には762万にまで増えると推計された。また厚生労働省の「被保護者調査」によれば、生活保護受給世帯数も右肩上がりで、その多くは公営住宅ではない借家住まいだという。
こうした人々は、家賃滞納などのリスクがあると考えられることなどを理由に、入居審査が通らない場合が多い。住居の確保が困難な人たちについては、公営住宅に受け入れる必要があるが、現状では公営住宅の大幅な増加が見込めない。そこで、増加しつつある民間の空き家などを住宅確保要配慮者向けの住宅として確保しようとしたのが、この制度改正である。
施行から2年たったが、住宅の登録数は目標には遠く及ばず、その制度すらあまり知られていない。その背景には、住宅確保要配慮者たちの入居に拒否感を持つ大家さんが少なくないという現実がある。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の「家賃債務保証会社の実態調査報告書」には、大家さんが住宅確保要配慮者に対して抱いている意識調査が報告されている。それによると、高齢者や外国人に対して約6割、障がい者に対しては約7割、子育て世帯に対しては約1割が拒否感を抱いているという。その理由の多くは「家賃の支払いに対する不安」で、収入がないと保証会社も契約に二の足を踏む傾向にあり、契約に至らないケースが多いという。
家賃滞納リスク以外の問題点
家賃滞納リスク以外にも問題がある。自社物件も扱う不動産会社の社員は、「登録が面倒だから、うちの会社では(住宅セーフティネット制度への登録を)やっていない」と語る。
「今でも役所から、住宅確保要配慮者に提供ができる物件はないか、ときどき問い合わせがあるんですよ。実際にないので断るんですが、それでもちょくちょく連絡が来ます。その応対だけでも手間なのに、さらに条件に合った物件を探して登録するなんて面倒くさいです。家賃滞納のリスクなどもあるから、仕事としても割に合わないので、やりたくないというのが本音です」
一方、大家さんの立場としてはどうか。東京近郊に複数のアパートを所有、管理している男性に話を聞いた。
「うちは子育て世帯は受け入れるけれど、高齢者の入居は断っています。たとえ収入や預貯金があったとしても、いつ亡くなるかわからないというのはリスクが大きいからです。自然死だったとしても、そこで人が亡くなれば事故物件になってしまいますしね。それを気にしない方が住んでくれれば、そのあとは告知義務がなくなりますが、最近ではネット上に事故物件を公開するサイトもあるし、その履歴が残ってしまうのが怖いです。かわいそうという思いはありますが、リスクを上回る大きな支援を得られなければ、やる意味はないと感じています」
住宅確保要配慮者を守るために改正された制度ではあるが、住宅を供給する側にとっては“うまみ”が小さく、リスクが大きい。これが登録を阻む原因となっているといえそうだ。
話を聞いた2人は異口同音に、「この制度を浸透させるには、大家さんへの支援額を増やすべき」だと語る。さらに、「政府が公営住宅を増設するのが一番で、それができないならば民間の物件を一括借り上げしたほうがいいのではないか」とも言う。今後、ますます増えることが想定される住宅確保要配慮者への対策は、再検討する必要がありそうだ。
(文=編集部)