深刻な数字が社会に突きつけられた。「2019年の出生数、87万人割れ確実」というものだ。もちろん、過去最少である。今月10日、衛藤晟一少子化対策担当相が閣議後の記者会見で明らかにした。
1899年の統計開始から初の90万人割れで、政府機関の想定よりも2年早い。数字の根拠は厚生労働省がまとめている人口動態統計。12月下旬に年間推計が公表されるが、今年1-9月の出生数は67万3800人(速報ベース)。落ち込みが前年同期比5.6%減となっており、10月以降もこの水準が続けば87万人を下回る可能性があるというのだ。2018年の出生数(確定)は91万8400人で、1-9月の数字は前年同期比2.5%減だった。2019年はこれを3.1ポイントも下回ったのである。
出生数を過去のデータから検証してみよう。団塊の世代が生まれた1949年の出生数は、269万6638人だった。2018年の2.94倍である。団塊ジュニアが生まれた1973年は209万1983人。80年代に150万人を割り込み、最多期から約40年後の2016年にはついに100万人を切った。その3年後に90万人割れとなり、落ち込みがとまらない。19年の出生数を87万人とし、仮に年間5%減のペースで減少していくと、単純計算で30年には50万人を割り込んでしまう。1-9月の5.6%減という数字はそれほど衝撃的だったのである。
出生数の上位は大都市圏
19年1-9月の出生数を都道府県別にみてみよう。上位10は次の通り。
・東京都:7万6283人
・大阪府:4万7988人
・神奈川県:4万7292人
・愛知県:4万3919人
・埼玉県:3万7038人
・千葉県:3万1366人
・福岡県:3万734人
・兵庫県:2万9432人
・北海道:2万4201人
・静岡県:1万8655人
これは前年の1-9月もまったく同じ順位である。人口の多い大都市圏を中心とした都道府県が上位を占めている。
注目は女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す「合計特殊出生率」。全国ベースでは1965年に2.14人だったのが、1975年には1.91人に低下。その後、平成に入った1990年に1.54人になり、2005年には1.26人まで下がった。ここ数年は1.4人台。15年は1.45人、18年は1.42人と再び下落傾向にある。
都道府県別の合計特殊出生率(2018年)の上位は、以下の通り沖縄・九州がほぼ独占した。トップ10に長崎県(6位)、佐賀県(8位)も入っている。
・沖縄県:1.89人
・島根県:1.74人
・宮崎県:1.72人
・鹿児島県:1.70人
・熊本県:1.69人
逆に大都市圏は振るわない。出生数でトップの東京都は1.20人で最下位の47位。同2位の大阪府は1.35人で39位、同3位の神奈川県は1.33人で42位と軒並み全国平均を大きく下回っている。労働環境、物価水準、教育・育児環境など大都市圏においては結婚、子づくり、子育ての条件の悪さが影響しているのだろうか。ちなみに、18年は全国の婚姻件数が58万6481件で過去最少だった。
「自然増」の市区町村も
出生数の減少、人口減少、婚姻件数減少という負のスパイラルはもはや食い止められないのか。たしかに大半の自治体が人口減に悩んでいるが、全国各地の自治体をみれば出生数が死亡数を上回る「自然増」となっている市区町村もある。19年の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数のポイント」(総務省、19年1月1日現在)によると、全国の1747自治体のうち、日本人住民の人口が自然増となったのは市区部で82、町村部で59ある。全体の8.1%にあたる。
市区部の自然増加上位は、1位から順に川崎市(2295人)、福岡市(1737人)、東京都港区(1296人)、同中央区(1141人)、千葉県(676人)。町村部の自然増加上位は1位から沖縄県南風原町(344人)、福岡県粕屋町(341人)、熊本県菊陽町(265人)、福岡県新宮町(190人)、静岡県長泉町(157人)。南風原町は出生者数573人に対し死亡者数は229人となっている。
全体の8%ではあるが、自然増加となっている自治体があるのだ。こうした自治体の生活環境や労働、教育、自然環境などを検証して、それを基に少子化対策につながるような地方活性化策を考えてみてはどうか。メディアも人口減少を悲観的に報じるだけでなく、自然増加自治体の実態を伝えることで国民的な議論を高めていくことが必要ではないだろうか。
(文=山田稔/ジャーナリスト)