またしても介護施設で惨事が発生した。さる5月22日、有料老人ホーム「サニーライフ北品川」(東京都品川区)の元職員が入居者を殺害した容疑で逮捕された。こうも介護施設で惨事が頻発すると、入居前に本人と家族は虐待リスクを念頭に置かざるを得なくなるのではないか。
厚生労働省の調査によると、介護施設で職員による入居者への虐待件数が増え続けている。調査を開始したのは2006年度で、虐待件数が減少した年は一度もない。17年度には前年度比12.8%増の510件、被害者は854人に及んだ。虐待の中身は「身体的虐待」(暴力を振るう)がもっとも多く59.8%、次いで「心理的虐待」(暴言・罵声)が30.6%、「介護等放棄」が16.9%。さらに17年度の相談・通報件数は1898件で、前年度比10.2%増だった。
何が要因となって虐待が発生しているのか。同じ調査によると「教育・知識・介護技術等に関する問題」が 303 件(60.1%)でもっとも多く、次いで「職員のストレスや感情コントロールの問題」が 133 件(26.4%)、「倫理観や理念の欠如」が 58件(11.5%)だった(複数回答)。
「介護職員の適性を欠いた人が増え、職員のレベルが劣化してきている」
そう指摘するのは、中堅社会福祉法人の事務長である。次のように実態を説明する。
「全国で要介護者が増えているので、介護人材の質も向上していかなければならないのだが、残念ながら現実は逆である。新卒で入職してくる職員は志を持っているが、中途採用では、職場を転々としてきた人が多い。いろいろな業界を脈絡もなく転々として介護業界に流れ着いたり、あるいは介護施設を短いスパンで渡り歩いてきたり。そんな応募者が増えている。履歴書を見れば、どこに転職してもマトモに務まらなかったことは想像がついて、うちに転職しても同じだろうなと思える人もいる。本来なら書類選考で不合格にしたいのだが、人手が足りないので採用せざるをないのが実情だ。そして、うちでも務まらなくて辞めていく。この繰り返しである」
産業界全体で人手不足が常態化している以上、この実態が改善に向かうことは期待できるだろうか。