利用者や家族からハラスメント
一方で“介護職員が被害者・利用者が加害者”という逆の事案も、増加の一途をたどっている。利用者と家族による介護職員へのハラスメントである。平成 30年度厚生労働省老人保健健康増進等事業「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究」(調査対象:管理者票1万施設・事業所、回収率21.6%/職員票約1万人回収)によると、利用者からハラスメントを受けた職員が4~7割、家族などからは1~3割だった。
介護サービス別では、訪問系サービスは「精神的暴力」の割合が高く、入所・入居施設は「身体的暴力」と「精神的暴力」のいずれも高い傾向を示した。さらに訪問系サービスと入所・入居施設とも、精神的暴力と身体的暴力に続いてセクハラ被害が多かった。
ハラスメントを受けた結果、けがを負ったりや病気になった職員は1~2割、仕事を辞めたいと思ったことのある職員は2~4割に達している。しかも、この現状に職場の対応が追いついていない。調査では、発生時の対応方法に取り組んでいる事業者の割合は比較的高いが、 防止対策に取り組む事業者の割合は低いことが明らかになった。
職員からはこんな嘆きが報告されている。
「職員が利用者・家族等からハラスメントを受けても管理者等が十分に話を聞くことができていない」
「職員の側に問題があるかのように対応するケースがある」
「ハラスメントを受けたことを相談しにくい雰囲気が職場にある」
まるで小学校や中学校のいじめ対応と同様の問題が潜んでいる。
史上最大のミスマッチ
こうして職員と利用者・家族が、加害者と被害者双方の当事者になるという厄介な介護現場に、大きな波が襲来してくる。団塊世代が大量に要介護者に加わる時代が迫っているのだ。「2025年問題」という言葉がひとり歩きしているが、高齢化のピークは団塊世代が全員90歳を迎える2040年で、25年から40年にかけて介護需要が増加していく。
そんな団塊世代は従来の高齢者と異質なタイプだという理由で、すでに一部の介護関係者は気を揉んでいる。団塊世代より数年若い1952年生まれの施設幹部は、こう懸念を述べる。
「団塊世代はスマホを使いこなす世代で、情報収集力も発信力もある。介護サービスを受け始めた当初は知識が皆無でも、専門情報を収集して理論武装してくるだろう。職員に対しても現在のようなハラスメントに向かうだけでなく、論争を仕掛けてくると思う。そして、団塊世代には反抗的なタイプが多い。職員の指示や要請に対しても、何かと反抗してくるのではないだろうか。入所者の会のようなユニオンを結成して、入所条件の変更要求を突き付けてくることも十分想定できる」