新型コロナショックが与える打撃は、風俗業界にも直撃している。国や各都道府県からの休業要請が出されていないケースもあるため、自主休業をしている店舗もあれば、いまだに通常営業をしている店舗もある。だが、営業を継続している店舗も状況は悲惨で、客数は通常の2~3割程度で推移しているという。
厚生労働省が新設した助成金では、4月3日に風俗業などで働く人たちが対象外とすると発表。ところが7日には一転、「風俗関係者を対象とすることにしたい」とし、風俗業や客の接待を伴う飲食業で働く人たちも支援対象とする方針を表明している。揺れ動いた政府の対応には、業界内にとどまらず多くの人々から批判が殺到したという。
なぜ、このようなお粗末な対応となったのか。自民党関係者が明かす。
「党内や厚労省には、クレームの連絡や有志の団体などから批判と改善を求める声が続出したんです。報道では支援団体『SWASH』からの要望書とありましたが、その他複数団体からも累計1万人以上の署名が集まり、なかには大学教授や医師、弁護士といった社会的に地位が高い人たちの名前もありました。そういった方々から直接の問い合わせもあったようで、党内では『このままではマズイ』との声が高まり、方向転換の必要にかられたんです。当初の政策自体が完全な見切り発車で、行きあたりばったりで発表した結果といえます。そもそも風俗関係者を対象外としたのは職業差別で、憲法違反に該当する可能性もあります。世間からの大バッシングは予測できたと思いますが」
結局、支援対象となったとはいえ、業界全体の閉塞感は変わらない。この助成金は、休校になった子どもの世話のために仕事を休んだ保護者が一定の要件を満たせば、勤め先が日額8330円(上限)、フリーランスの場合は本人が一律日額4100円の支援を受けられるというものだ。都内の風俗店で働くシングルマザーの女性は、「そもそも助成金の制度に問題があるのではないか」と訴える。
「前提として、多くの風俗業界で働く女性たちは確定申告をしていません。感覚的には1割もいればいいほうでしょう。日や週の売上げを把握していないという子も多くいます。そのため、助成金を受けたくても受けられないという女性が多く、そのあたりは国としても把握していると思います。学校が一斉休校になり、子供の世話も必要。さらにお店も休業となり、完全に収入源が絶たれたかたちです。国は、私たちのようにいろいろな状況が重なり、風俗で働かざるを得ないという女性たちを見捨てるつもりなのでしょうか」
先述した通り、風俗店を訪れる客は激減し、運営の存続すら危ぶまれる店舗も出てきている。休店対応を発表する店舗が今後、さらに増加することは間違いなく、女性たちは働き口を失うことになる。
風俗店休業の余波
その一方、一部の店舗では雇用対策も行われているという。都内の風俗店店長が明かす。
「女の子たちの働く場を確保しないといけないという面が前提としてあります。シフトに入れてもらわないと生活できない、借金を返せないと、懇願されているケースもありますから。一部の人気嬢は、以前と変わらず一日中予約で埋まる子もいますが、大半の子は厳しい状況です。なかには、出会い系アプリなどを使って個人でウリ(売春)に走ったり、顧客に直営業しているケースも聞いています。ただ、感染を抑えるためにも、店舗としては稼働時間を減らしたり、女性の出勤を減らすといった対策しかできません。
そんな背景もあり、ソープ街などの一部店舗では、お店同士が協力して、休業している他店の女の子も働けるシステムをつくるという動きもあります。緊急事態のため、店としては一時的に副業や掛け持ちも仕方ないという考え方になっていますね」
では、女性たちの動きはどうか。現在、都内の風俗店で働く女性たちは、他県へ拠点を移す“出稼ぎ”状態も始まっているという。先出の女性が続ける。
「女性たちの主な行動パターンは2つです。ひとつは、デリヘルやホテヘルといった、店舗でない業種との掛け持ち。もうひとつが、地方のソープへの出稼ぎです。特に東京や神奈川で働く女性たちは、北は秋田、南は鹿児島まで、全国に散らばっています。地方にいけば寮もあるので、衣食住には困らないんです。また、都心よりもお客さんは動いており、状況はずいぶんマシなようです。それほど女性たちの生活は困窮しており、打開案として地方へ流れるという選択は苦肉の策でもあるんです」
男性たちの風俗利用は激減しているが、意外なところで、好況に沸く業態もあるという声も聞こえてきた。風俗専門誌編集者が語る。
「個室ビデオ店は、通常よりも利用者が増えていますね。というのも、テレワークになり、夫婦共に自宅にいることで“性欲の解消”が難しい状況。そんななかで、安くて気軽に行ける個室ビデオ店は、かなり多くの利用者がいます。個室ビデオ店が休業要請の対象とされている地域では自粛しているチェーンもありますが、開店している店舗は軒並み好調です。それほど性解消の場が限定されているということを意味します。某大手グループは、新型コロナが拡大する前よりも人が多く、スタッフもかなり大人数を入れて対応しているほどです」
いまだ収束の気配が見えない新型コロナの影響は、風俗業界に従事する人間にとって死活問題でもある。そんな状況を顧みず、支援対象から一時的にでも外そうとした政府に対して批判の声が上がるのは、ある意味、当然といえるだろう。政治家には、その切実な声を重く受けとめてほしいものだ。
(文=編集部)