嵐の二宮和也さんと元女子アナウンサーの夫婦が女性霊能師に心酔していると「週刊文春」(5月7 日・14 日ゴールデンウィーク特大号/文藝春秋)で報じられた。女性霊能師に以前から心酔していた妻の元女子アナは、この女性を「マダム」と呼び、二宮さんとの結婚や入籍の時期についても逐一相談してきたという。
心酔は、ほれ込みが強くなった状態で、しばしば次の3つの要因が認められる。
1)過大評価
2)理想化
3)無批判的服従
二宮さんの妻は、この女性霊能師を実際以上に高く評価して理想化し、その助言や指示に無批判に従っているのではないか。
もっとも、3つの要因がそろうには、それなりの理由がなければならない。この女性霊能師は高齢で、幼い頃から人には見えないものが見える特殊能力があると自称しているらしい。しかも、仕事や結婚について的確な指示を出すため、芸能界だけでなく財界や政界にも多数の顧客を抱えているという。
なかなかやり手の霊能師のようだが、私は唯物論者なので、霊などというものを信じない。しかし、霊が存在しないことを証明することはできない。だから、霊の存在を信じ、人には見えないものが見えると主張する霊能師に頼る方が一定の割合で存在するのは仕方がないと思う。
ただ、実害をもたらす場合がある。たとえば、私の外来に通院していた患者のなかには、大金を払って霊能師や占い師に相談し、かえって症状が悪化した方がいる。そういう方の話を聞くと、人気のある霊能師や占い師は、人間観察能力に長けているという印象を受ける。とくに「他者の欲望」を察知する能力が高く、相談者の言ってほしいことを言ってあげる傾向が強いように見える。
霊能師や占い師に頼る心理
二宮さんの妻が「マダム」と呼んで心酔している女性霊能師が仕事や結婚について的確な指示を出せるのも、人間観察能力が優れているからだと思う。また、多くの人の相談に乗る経験を積み重ねるほど、このタイプの人はこういう反応や行動をしやすいとか、この場合はこうしたほうがいいとかいうことがわかってくるので、より的確な指示を出せるようになる。
われわれ精神科医が多くの患者を診察する経験を積み重ねるほど、このタイプの患者はこういう経過をたどりやすいということがわかってきて、より的確に助言できるようになるのと同じである。
にもかかわらず、人には見えないものが見えると主張することによって、長年の経験から得られた知見に箔をつけ、信頼させる霊能師も一部にはいるのかもしれない。
そういう手法が功を奏するのか、霊能師や占い師に心酔する芸能人が少なくないように見受けられる。その一因として、人気という目に見えないあやふやなものを頼りにする職業であり、浮き沈みが激しいため、普通の人には見えないものが見えると主張する人を人一倍信じやすいことがあるのではないか。
不安を精神医学の知見によって解決するはずの精神科医のなかにも、霊能師や占い師にすがる方がいる。たとえば、以前新聞で対談した春日武彦氏は、「誰も自分に執筆依頼なんかしてこなくなるのではないかといった暗い想像」が働き、「不安感と不全感と迷い」に精神を覆い尽くされた状態に陥ったため、計5回、5人の占い師を訪ねたという(『鬱屈精神科医、占いにすがる』)。春日氏は、お祓いまで試みたらしい(『鬱屈精神科医、お祓いを試みる』)。
また、最近、知り合いの精神科の開業医に久しぶりに会い、「今、開業医の間で何が話題になっているのか」と尋ねたら、「どの占い師が当たるか」という答えが返ってきた。新型コロナウイルスの感染拡大のせいで、医療機関での感染リスクを恐れて外来受診を控える患者が増えており、診療所では平均して2~3割、多いところでは4割程度患者が減っている。この状態が続くと、やがて経営破綻する診療所が出てくるのではないかと危惧する声もあり、こうした状況が影響しているのかもしれない。
いつまで休業や外出自粛が続くのかわからず、みな先が見えない不安を抱えている。そのため、霊能師や占い師に頼る人は今後ますます増えるのではないだろうか。
(文=片田珠美/精神科医)
参考文献
春日武彦『鬱屈精神科医、占いにすがる』太田出版 2015年
春日武彦『鬱屈精神科医、お祓いを試みる』太田出版 2017年