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被災者に逆ギレする役立たずのモンスターボランティアが大迷惑!かえって被災者のストレスに

文=谷口京子/清談社
被災者に逆ギレする役立たずのモンスターボランティアが大迷惑!かえって被災者のストレスにの画像1「Thinkstock」より

 熊本地震で救援活動を行っていた自衛隊が約1カ月半にわたる災害派遣を終了した一方、被災地には全国から多数のボランティアが駆けつけている。

 しかし、なかには、さばききれないほど大量の物資を送ったり、自身の食料や寝床を確保せずに乗り込んだりするなど、「モンスターボランティア」「押しかけボランティア」と批判を浴びる人たちも少なくない。

 二次災害にもなりかねない、このような「善意の押しつけ」は、東日本大震災でも見られた現象だ。災害時にモンスターボランティアが問題となる背景には、いったい何があるのか。

『福島第一原発廃炉図鑑』(太田出版)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)などの著書を持つ、社会学者の開沼博氏に話を聞いた。

福島では避難所に「心のケアお断り」の張り紙が

–熊本地震の被災地で、「モンスターボランティア」が問題になっています。災害が起きるたびに、なぜ「善意の押しつけ」が繰り返されるのでしょうか。

開沼博氏(以下、開沼) ひとつは、イメージと現実との差が広がるなかで混乱する人々が出てくることがあるでしょう。メディアの報道などを通して見える被災地のイメージと、実際の現地の状況との間にある「ギャップ」を捉えきれずに善意を押し付ける。

 例えば、支援物資として食料品を送っても、その物資が届く頃には交通経路が復旧して、まったく食べ物に困っていない場合がある。

 過去のことや一部の人にとっての被災状況が、いつまでも、すべての地域に当てはまるかのような認識が広がり、固定化すると、「善意」「かわいそう」の押しつけを始める人が出てくる。

–今回の熊本地震では、阪神・淡路大震災や東日本大震災のケースを教訓に、インターネット上で「被災地いらなかった物リスト」が拡散されました。そして、そのなかに、千羽鶴や寄せ書きが含まれていたことで賛否両論が巻き起こりました。

開沼 千羽鶴や寄せ書きは「善意」のステレオタイプです。「善意」を送る側と受け取る側の間に、ギブアンドテイクの関係が成立していれば問題ありませんが、実際はそのステレオタイプが万能なわけではない。

 ただ、善意を持っている人を責めてどうにかなる問題でもない。ステレオタイプな「善意」と実際のニーズとのギャップを埋めるのが、間に立つボランティアや支援者の仕事ですが、経験・スキルが求められるのが実際のところ。いわば「プロ」が介在する必要が出てきますが、そういった人材は限られている。

–開沼さんは、2011年3月11日に発生した東日本大震災後から、復興を追い続けています。福島にも、モンスターボランティアはいたのでしょうか。

開沼 それは、いくらでも。もちろん、全体から見れば一部ではありますが。例えば、東日本大震災の当時、ある時から避難所の壁に「心のケアお断り」という張り紙が貼られるようになった。ボランティアのなかには、「心のケアをします」「お話しします」という目的で現地を訪れる人が少なくなく、そういうボランティアに対応すること自体が、被災者のストレスになっていました。

 本人たちに悪意がないだけに直接伝えることもできず、張り紙というかたちで心のケアを断ることになったこともあったでしょう。それでも、世間では「これからは心のケアが大切です」なんていうステレオタイプなフレーズは、その後も流通し続けたわけなんですが。

–東日本大震災では、一部のボランティアが、被災地に無料の宿泊所や食事を要求したことなども問題になりました。

開沼 食事・宿は自分で手配する自己完結型の活動ができないならば、現場には負担がかかることは繰り返し言わなければならないでしょう。ボランティアなので「自分たちのやりたい気持ち」を大事にするのはいいんです。ただ、「相手が何をしてもらいたいのか」が大前提です。

 男性中心のボランティア団体が運営を仕切っていたある避難所では、女性用の更衣室を自分たちの事務所にしてしまい、女性の被災者が「更衣室をつくってほしい」と頼むと逆ギレする。あるいは、地元で影響力のある人が避難所にいれば、その人を排除して自分たちに都合のいい被災者にひいきする。そういった実例は、どんな災害でも起こり得ることでしょう。

 自分が正義心で行っていることを他人に否定されると逆ギレする。被災地の人にとっては、本当に厄介な存在なんです。

モンスターボランティアになる人たちの共通点

–モンスターボランティアになるのは、どういうタイプの人なのでしょうか。

開沼 現場に精通するプロとともに動くぶんには問題ないでしょう。ただ、問題になるのは自分が主人公になることを第一にボランティアに行ってしまい、強引に場をコントロールしようとする人ですね。

 現場を統治するのは、相当なスキルが必要な「仕事」です。例えば、マグロ漁船の漁師や性風俗などの職業に対して、「キツい」「汚い」「危険」の3Kを我慢すれば稼げるとか考える人がいますが、それらの仕事は実際は相応のスキルが必要で、決して誰もが我慢さえすれば楽に稼げるような仕事ではない。

 という話と同じで、ボランティアも、相当なノウハウと経験がなければ、現場を仕切ることはできません。

–言われてみれば、確かにその通りですね。ましてや、大震災という非常時です。

開沼 土地勘もなく、目の前にいるたくさんの被災者がストレスを抱えている状況で、未経験のボランティアが強引に場をコントロールできるはずがないことを、まず自覚しなければならない。大変残念ながら、東日本大震災でも熊本地震でも、ほかの災害でも、行政職員が自殺する事件が起こっている。非常時に人の前に出て状況を整理する立場に立つ人には、それだけのストレスがかかるということです。

 人手や物資が増えるのはいいのですが、増えた分だけ、現場をマネジメントする経験豊富な人の供給を追いつかせる必要があります。

–ボランティア経験のない人は、被災地にどんな支援をすべきなのでしょうか。

開沼 地元の社会福祉協議会やNPO団体など、しかるべき支援の受け皿となっている団体の指示に従いつつ、自分ができること、自分がやってよかったなと続けられることを見つけながら、無理せずに持続的な活動をするべきです。

 あるいは、そういった支援機関に募金することです。その募金は、ボランティアの実務能力の高い人が現地でしっかり動くための活動費に充てることができます。

 東日本大震災でも、効果的かつ持続的に動くことができたのは、長い間地元でNPOとして地域づくりの活動をしていたボランティアでした。こういった前例を踏まえて、無理なくできることから始める必要がありますね。

–ありがとうございました。

 ちなみに、義援金は被災者に直接渡されるため、震災直後など緊急を要するタイミングであれば、NPO団体への募金が有効だという。「被災地の力になりたい」という善意は否定されるものではないが、その善意を示す方法を間違えないことが重要なのだ。
(文=谷口京子/清談社)

●開沼博(かいぬま・ひろし)
1984年福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。専攻は社会学。著書に『はじめての福島学』(イースト・プレス)『漂白される社会』(ダイヤモンド社)『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久氏との共著)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。学術誌の他、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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