忘れてはならないことがあった。日本最大のヤクザ組織、山口組が現在も分裂状態にあるということだ。
年明けに六代目山口組と神戸山口組が特定抗争指定暴力団の指定を受け、新型コロナウイルスの影響もあり、山口分裂問題はここ数カ月、明らかに沈静化していた。そんななか、まるで緊急事態宣言が解除されるのを待っていたかのように、岡山県で銃声が上がったのであった。
5月30日、岡山県岡山市にある神戸山口組池田組の本部事務所では、故・高木昇若頭の法要が営まれていた。高木若頭は、2016年5月31日、六代目山口組の中核組織である三代目弘道会傘下の三代目髙山組系元組員によって射殺された。2015年8月27日に六代目山口組が分裂し、同組と神戸山口組の対立軸が鮮明になって以降、最初の犠牲者となってしまったのだ。
この射殺事件の容疑者となった元組員は無期懲役が確定し、現在は刑務所に服役しているが、事件直後は現場から逃走。そのため、当初は実行犯に対して業界内でさまざまな憶測が駆け巡っていた。
そのなかには、「ここ最近、鳥取ナンバーの不審車両が岡山市内で目撃されている。もしかすると犯人は、大同会(鳥取を拠点とする六代目山口組の二次団体)の組員ではないか」といった声があった。そうした見方を裏付けるような背景もあったのだ。それは、池田組と同じく岡山市内に本部を置き、同組とは対立していた六代目山口組二代目大石組の態勢が手薄になっていたことから、六代目山口組で本部長を務める、森尾卯太男会長率いる大同会などが、二代目大石組に応援に入っていたのだ。そのため、池田組サイドと大石組・大同会サイドの緊張感はさらに高まり、そうしたなかで、高木若頭が襲われたのである。
だが、その後、犯人が出頭。大同会が高木若頭射殺事件に関与していなかったことが判明したのだが、事件から4年の月日が経った5月30日、前述した高木若頭の法要で銃声が鳴り響いたのである。
今回の銃撃事件で、一命は取り留めたが、重傷を負ったのは池田組幹部。発砲したのは、大同会の若頭代行を務める幹部だった。奇しくも、狙われた池田組幹部は、高木若頭の後任となる若頭だったのだ。
「発砲された池田組若頭は命に別状はなかったものの、その後の手術は3時間にも及んだという話があるほど。それを見ても、犯人は脅し目的ではなく、はじめから若頭の命を取ることが目的だったのではないだろうか」(地元関係者)
身体に銃弾を撃ち込むということは、この関係者の言うように、殺意を持って犯行に及んだと見て間違いないだろう。それも、山口組分裂抗争で凶弾に倒れた高木若頭の法要が執り行われている最中にだ。組織的な犯行か、幹部個人によるものなのかは、今後の捜査の進展を見ないとわからない。
だが、形勢有利と伝えられてきた六代目山口組サイドが、今回あらためて強行姿勢を示したことで、分裂問題が大きく進展することは想像に難くない。むろん、それに対する警察当局の締め付けは強化され、厳罰化はさらに進むだろう。
「それは、承知の上ではないでしょうか。そもそも今回の発砲事件は、岡山県警のみならず、兵庫県警なども警戒態勢を敷いてるなかで起きました。警察サイドでも万が一に備えていたわけです。しかし犯人は、お構いなしに犯行に及んだ。今後、当局の締め付けが厳しくなったとしても、ここで大きなアクションを起こし、早期に分裂抗争に終止符を打たなければならないという、六代目山口組サイドの強い意志の現れとも見てとれます」(地元記者)
今回の発砲事件が、分裂問題にどのような影響をもたらすのか。さらに“早期決着”を目指し、六代目山口組サイドによる攻撃は続くのか。これに対する神戸山口組サイドの報復は起きるのか。緊急事態宣言が解除され、社会が日常を取り戻そうとするなか、両組織における緊張状態は一気に増してきている。
(文=沖田臥竜/作家)