新聞各紙の震災報道 東京「原発関連死789人」毎日「避難民31万人」
東日本大震災から丸2年を迎えた、3月11日。各メディアとも震災関連のニュースを大きく報じており、震災の早期復興を願い、被災地の現状や復興政策の進捗を伝えていることは共通しているが、その内容やメッセージには違いがあるようだ。各紙の朝刊一面にしぼり、その内容を読み比べてみよう。
「区切りじゃない 忘れない」との見出しで、現在も続く宮城県石巻市・北上川河口付近での行方不明者捜索作業について報じているのは、朝日新聞だ。この地域は、児童と教職員計84人が死亡・行方不明となった大川小学校の下流域にあたるという。
同紙は大川小で行方不明になった子の帰りを待つ男性の「ここの捜索が終われば『区切り』になってしまうのだろうか。時間がたてばたつほど、つらくなる」という言葉を紹介。瓦礫は撤去されても「家族を失い、時が止まったままの被災者はまだたくさんいる」とまとめた。
毎日新聞は、いまなお31万5196人が全国で避難生活を送っているとして、地域による「復興格差」を指摘しながらも、「涙の後の道しるべ」という前向きな見出しを立てている。大地震の40分後、雪が降りしきる福島市の病院駐車場に停めた車内で産声を上げた橋本栞ちゃんについての記事で、母・幸枝さんは「3月11日を祝えない人もいるかもしれない。でも、親としては誕生日を大事にしたい」と語った。記事は「栞ちゃんが日々成長するように、被災地が復興への日々を刻んでほしい。その名は、木の枝を折り山道などで先を示す『道しるべ』(枝折り=しおり)の意味もある」と締めくくられている。
朝日、毎日とリベラル寄りの両紙が被災地の“いま”を伝えているなかで、読売新聞は「『20ミリ・シーベルト帰還』へ安全指針」と政府の方針について言及。記事では、政府が福島第一原発事故による避難者の帰還に向け、放射線量の年間積算線量に応じた安全指針を作ると伝えており、「客観的な指針が打ち出されれば、除染目標の見直しにつながる可能性もある」と期待を込める内容。今後の政策に目が向いているのが、保守系メディアらしいと見ることもできるだろう。
一方、「原発関連死789人」との見出しで「原発事故は、収束していない」と踏み込んだ記事を書いているのは東京新聞だ。福島第一原発事故に伴う避難やストレスに寄る体調悪化などで死亡したケースを、同紙が独自に「原発関連死」と定義し、福島県内の市町村に該当者数を取材したところ、少なくとも789人に上ることが分かったという。
254人が原発関連死とされた福島県・浪江町では、災害弔慰金申請用紙の「死亡状況」欄に「原子力災害による避難中の死亡」という項目があり、町の担当者は「全員がこの項目にチェックしている。自殺した人もいる」(同紙)と話している。南相馬市といわき市の状況は把握できていないことから、同紙は大きな被害が出た両市を含めると「(原発関連死は)1000人超か」としている。
東京新聞も事実ベースの記述に留めており、被災者がこの一日、心穏やかに過ごせるようにという配慮か、あるいは復興を引き継ぎ、スタートしたばかりの自民党政権への遠慮か、復興政策を声高に批判する論調は見られない。共通して「早期の復興」を願う記事だからこそ、各紙のスタンスの違いがかえって鮮明に表れたと言えそうだ。
(文=blueprint)