日露首脳会談では「率直」だけでなく、「突っ込んだ議論」と表現していることから、安倍首相が領土問題解決に向けて、しつこく食い下がったと読めるのだが、プーチン大統領は「ロシア側から見れば、領土問題はないに等しい」などと読売新聞の会見と同じように語り、安倍首相の提案に激しく反発したに違いない。
プーチン大統領の国内向けの成果ばかりが強調
ところで、プーチン大統領は19日、山口県の会談場所への到着が2時間遅れ、首脳会談もずれ込んだ。さらに、20日午前の出発時間も大幅に遅れて、東京での安倍首相とのワーキングランチ会談もなくなってしまった。このような2日続けてのたび重なる“遅刻”は、安倍首相との会談を最小限にとどめて、実利だけを得ようというプーチン流の外交戦略と疑われても仕方がない。「さすがに、元KGB(旧ソ連国家保安委員会)工作員だったことだけあって、謀略がうまい」と誉めることができるかもしれない。
結局、今回の首脳会談の成果といえば、両首脳の共同会見の前に長々と行われた経済関係を中心とした調印文書の交換だけであり、領土問題の進展はなかったといえよう。北方四島での「共同経済活動」実現に向けた協議開始で合意したとはいえ、すでにロシアメディアは「自国(ロシア)の法律に基づき実施する」としており、協議は難航が予想される。
11年ぶりのロシア大統領の訪問だったが、その割には、領土問題解決を急ぐ日本側は足元を見られて“ホームグランド”の利点を生かせず、ロシア側にいいように振り回され、プーチン大統領の国内向けの成果ばかりが強調される結果となったのではないか。
今回の首脳会談で、日本とロシアの政府や企業が進める経済協力の案件数は60を超え、エネルギー開発や医療などの分野を中心に投融資の総額は3000億円規模になる見通しであることが、それを明確に裏付けている。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)