「朝鮮半島の平和は北東アジアの平和を保障し、世界秩序の変化に肯定的に作用する」
「そのスタートが朝鮮半島終戦宣言である」
「終戦宣言こそが朝鮮半島における非核化と恒久的平和体制の道を開く扉になるだろう」
9月23日、米ニューヨークの国連本部で開かれた国連総会(テレビ会議方式)。議場のモニターには、身振り手振りでそう語る韓国・文在寅大統領の姿があった。
だが、まさにその演説が流れる直前、韓国政府にはにわかには信じがたい北朝鮮の蛮行の一報が入っていた。黄海上の韓国と北朝鮮の海上境界線である北方限界線(NLL)を越え、北朝鮮で発見された韓国海洋水産部の公務員男性(47)が、北朝鮮軍兵士に射殺され、遺体をガソリンで焼かれたのだ。
中央日報や聯合通信など複数の報道によると、男性は21日に韓国側の海域で乗船中に行方不明になり、翌22日午後3時半ごろ、北朝鮮側の海域で漂流しているのを北朝鮮当局が発見。同国軍兵士が同日午後9時40分に射殺し、海上に浮いている遺体にガソリンをかけて燃やしたという。
どのような理由があるにせよ、非武装の民間人を射殺し、火を放つ行為は平和とは程遠い。25日現在、韓国国内では文大統領や政府の事件対応の稚拙さや、事態にそぐわない国連演説を取りやめなかったことについて、批判の声が殺到している。
演説は録画だったが、大統領府は放送の2時間前に状況を察知
中央日報インターネット版は24日、記事『文在寅大統領、北朝鮮の蛮行を見ても終戦宣言したのか…韓国大統領府「終戦宣言15日に録画」』を公開。韓国政府関係者の次のような弁明を掲載している。
「文在寅大統領の国連演説は15日に録画され、18日に国連に送られた」
「直接参加だったらその場で変更することもできただろうが、今回は修正が非常に困難な状況だった」
一方、同記事ではこの説明に対し、次のような疑問を呈している。
「文大統領の演説は、韓国時間で23日午前1時26分に始まり、15分余り行われた。国防部は演説の約2時間前の22日夜11時頃、行方不明の公務員が北朝鮮の銃撃を受けて死亡し、遺体まで焼かれたという内容を青瓦台(編注:韓国大統領府)に報告した。青瓦台が関連事実を認知していたにもかかわらず、文大統領の『終戦宣言』の演説が行われたのだ」
明らかに状況にそぐわない演説であるなら差し替えるなり、差し止めるなりするものではないのか。国連総会のオブザーバー資格を持つNGO関係者は次のように説明する。
「国連安全保障理事会などリアルタイムで協議を行う実質的な外交の最前線と違い、国連総会はセレモニー的な意味合いが強いです。しかもコロナ禍の影響で基調演説は事前録画の流れになっていて予定調和な部分があることは否めないでしょう。
とはいえ、今回の一件は他の地域でも重大な外交問題に発展する恐れのある事案であり、その当該国のトップの演説内容が状況にそぐわないものであれば、国連本部側も柔軟に対応したと思います」
文在寅大統領は是が非でもノーベル平和賞が欲しい
韓国野党「国民の力」関係者はさらにうがった見方を示している。
「文氏は今年こそ自身と金正恩朝鮮労働党委員長の共同でノーベル平和賞を獲得できるとでも考えていたんでしょう。文氏とその周辺のノーベル平和賞への執着は極めて高く、支持者らは『安倍晋三前首相の大叔父の佐藤栄作元首相が受賞できるくらいなら、文大統領と金委員長は当然受賞できるはずだ』と以前から公言していますからね。内実の伴わない掛け声だけの平和は、地域の不安定要因でしかありません。
事情はどうあれ、国家のトップとしてあまりにも稚拙な対応で、世界中から失笑を買ったことに非常に失望を感じています。亡くなった公務員の男性について、青瓦台は盛んに『自分の意志で北朝鮮に渡ろうとし、コロナ防疫中の北朝鮮当局に殺害された』と説明しています。自分の意志で行ったのなら、非武装の自国民が明確な裁判もなく射殺され、遺体を焼かれてもしょうがないということなのでしょうか。理解に苦しみます」
かつて金大中大統領(当時)は2000年、金正日総書記(同)と初めての南北首脳会談を開きノーベル平和賞を受賞した。この際、金大中大統領だけが受賞したため、金正日氏は激怒したという。文大統領は金大中時代にノーベル賞獲得工作を行った秘書官をノーベル委員会のあるノルウェー大使に据えたり、北朝鮮参加の2018年平昌冬季五輪を開催したり、着々と準備を進めてきた。
今年のノーベルウィークも近い。文大統領のノーベル賞受賞の野望はまだ潰えていないのかもしれない。
(文=編集部)