東京女子医科大学(東京都新宿区)が2021年度の入学生から学費を年間200万円、6年間で計1200万円値上げすることを決めた。一部報道では、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う大学病院の経営悪化が原因と指摘している。当サイトで7月7日に報じたとおり、同大は経営悪化を理由に看護師職などの夏季賞与をゼロにようとしたところ、同大労働組合が猛反発。関連病院の看護師職の約400人が退職意志を示す騒動に発展にした。その後、同大理事会は慌てて賞与を支給していた。たて続く不可解な経営決定に、学内からは疑問の声が尽きない。
学費値上げは「施設設備費」で年間200万円増
9月28日付朝日新聞デジタル記事『東京女子医大、学費1200万円値上げ コロナで経営難』は以下のように報じている。
「東京女子医大がホームページで公開している入学案内によると、6年間の学費は4621万4千円。広報担当者によると年間200万円の施設設備費の項目が新たに加わったという。値上げの詳しい理由はホームページでは示しておらず、取材にも回答していない」
ここで気になるのが、学費増額の要目である「施設設備費」だ。
当サイトの取材で、同大理事会は今年4月、6億2000万円の理事室移転等改修工事予算を承認したことがわかっている。同予算は今年整備された新校舎・彌生記念教育棟に理事室を移転させるというもので、こうした一連の設備建設が経営を圧迫し、今夏に30億円の赤字を計上したと見られる。その結果が、看護師らの夏季賞与をゼロにするという騒動につながった。
「教授会での議論なく教職員を削減、合理化へ」
そもそも新校舎を建設するのにあたり、なぜ最初から理事室の移転が計画に含まれていなかったのか。学費の値上げとともに、同大労組が朝日新聞の報道に先立ち、11日に発行した「組合だより」には、以下のような内容が書かれていた。
「医学部の学費を来期から年間200万円6年間で1200万円もの引き上げを決定しました。組合が得た情報によると、教授会での議論もなく、突然理事会から報告されたと聞きます。
さらには、医学部や看護学部の教員数の削減も打ち出すなど、教育分野でも人減らし『合理化』を断行しようとしています。 理事会が進める『闇雲な人長整理人件費削減』は、誰が見ても『異常』とも言えるものですが、何よりも計画から決定まで、理事会以外でもどれだけの会議での議論を重ねたのか、必要な教職員の意見を開いたのか、さらに決定事項についてもきちんとした説明がなされてきたのか、全てにおいて大きな疑問を残しています。
(中略)
労働組合は、理事会が本当に必要な設備投資に資金を投入することを否定するものではありませんが、今の理事会の『教職員の労働環境切り下げ』 の姿勢を続けると、新棟建設等が完成しても『砂上の楼閣』になる危険性があることを危損します」
「看護師賞与の件で歯向かった教職員に報復」との声も?
つまり学費の値上げだけではなく、教職員の大規模リストラも検討しているというのだ。同大教員は次のように語る。
「これまでは放漫経営を行っても、関連病院がしっかり利益を上げていましたから赤字になることはありませんでした。良い意味でも悪い意味でも、一般企業であれば設備投資を控えるべき場面でも、コスト意識なく果敢に行うという経営姿勢が理事会にあったと思います。
東京女子医科大は工場ではなく病院であり、研究機関です。最先端の医療機器や実習設備があることが常に求められるので、設備投資自体を否定できません。ただ長年、ずぼらな経営をしていたからこそ、今回のコロナ禍という緊急事態にどう対応したらいいのかわからないのでしょう。
理事会の方針では新入学生の定員は削減せず、教職員のみ削減するそうです。少人数制できめの細かい学生指導が本学の特徴であり強みでしたが、来年度以降はそれも難しいでしょう。医療は設備の充実度以上に、スタッフの質がどの分野より求められる業界です。それを自ら貶めるような運営でいいのでしょうか。
看護師の賞与の一件以来、理事会は福利厚生の拡充を訴える教職員を排除対象と見なしたという話を聞きます。報復的な意味はないのでしょうか。学内の人的資源を徹底的に合理化した後に、最新設備の白い巨塔だけが残る。悪い冗談にしか聞こえません」
いずれにせよ、大学の看板を掲げ続けるのであれば、教育の質こそ最も大切だ。学費の値上げも、教職員数の削減による授業や研究の質の低下も、すべて未来の学生たちへの負債になるのではないだろうか。同大の今後の運営に注視したい。
(文=編集部)