08年着工のモノレール、いまだに1mmも走れず
2008年7月に工事が始まった韓国・仁川広域市の月尾銀河レール。路線距離はゆりかもめ(14.7km)の4割程度にあたる6.1km、4つの駅を行き来するだけの簡易な観光用路線だ。
名目GDP世界11位(16年)、電子機器や家電で世界を席巻する韓国にとって、これはなんの変哲もないインフラ工事のはずだった。だが月尾銀河レールは着工から10年目の今も営業運転できないまま、計画中止か続行かでモメている状態。市の交通当局は再着工の計画を強行しているが、今年1月にはついに検察庁の強制捜査を受けている始末だ。
商用実績のない技術、工事途中の仕様変更……
韓国・空の玄関口、仁川国際空港。そのお膝元・仁川広域市は、首都ソウルの西に接する港町だ。月尾銀河レールが走る予定だったのは、韓国鉄道・仁川駅からその2kmほど西の行楽地・月尾島を回る区間。月尾島は日本統治時代の埋め立てで地続きになった避暑地であり、80年代に入って行楽地として観光開発された。小さな遊園地や飲食店が立ち並び、週末にはソウルからの行楽客で賑わう。
モノレール構想は2002年から始まり、07年3月に計画が確定。一連の事業主体は仁川広域市傘下の地方公企業・仁川交通公社だ。着工時の開業予定は09年8月。だがその4カ月前、早くも最初の問題が浮上する。当初は米メーカーからY字型モノレールを導入するかたちで着工したが、これがまだ商用運転の実績がない技術だったことが問題視されたのだ。
仁川交通公社は施工方式を修正し、主な運行システムの発注を韓国メーカーに変更。だがこれも製造経験のないメーカーだったことが明らかになり、安全性への懸念が噴出した。
試験運転で逆走、駅に突っ込み施設破壊
ほどなく開業予定が翌10年3月に延期され、10年6月からようやく試験運転が開始。だが10年4月に最初の事故が発生する。逆走した車両が駅で停車していた別の車両に突っ込み、電光掲示板などが数m下の地上に散乱する騒ぎとなったのだ。
この間にも仁川交通公社は、開業予定を10年の3月から6月、さらに9月と小刻みに延期。だがもちろん守られることはなかった。それどころか同年8月には試験車両の車輪の一部が走行中に破断し、落下した部品が通行人にあたってケガを負わせる事故が起きている。