「お子様をお連れの方は入場制限をさせていただきます」
韓国では最近、このような案内文を店頭に貼り出す飲食店や喫茶店が増えている。いわゆる「ノーキッズゾーン」だ。なぜ子供の入店を拒否するのか。
その理由は、一部のマナーの悪い母親たちのせいで、ほかの客と店主が大変な迷惑を受けているからだ。迷惑行為の内容は、にわかには信じ難いかもしれないが、次のようなものだ。
・飲食店の店内で、息子に紙コップへおしっこをさせる。店内で平然と子供のオムツを取り替える。さらには使用済みのオムツをそのままテーブルに置いていく。
・一人前の料理しか頼まず、「うちの子供も一緒に食べるから多めにお願いします」と要求。
・店の中を走り回る子供を止めるどころか、店員が注意をすると逆ギレ。
・黒板に書かれた店のメニューを子供が消しているのに、むしろそれを「うまくやりましたね」と褒める。
これはほんの一部だが、一般人の想像を超える行為ばかりだ。
こうした母親たちは、さすがに韓国でも社会問題になっており、「マム虫」と呼ばれている。これは「お母さん」を意味する英語の「mom」に「虫」をつけた単語で、非常識な母親をけなす呼び名だ。もちろんすべての母親が常識外れの行為をしているわけではない。一部の母親の行為があまりにも衝撃的で目立つだけで、ちゃんと常識を持っている母親のほうがはるかに多い。
しかし一部とはいえ、そのような客が店に与える影響は大きく、店内で子供が暴れることで熱い飲み物や食べ物がほかの客にかかったりケガでもしたりすれば、店側も責任を負うリスクがあるため、仕方なくノーキッズゾーンの導入を選択する店主が増えるのだ。
ところで、こういう非常識な行動を取る人は、母親という立場以前に人間として問題を抱えているといえる。周りの目や相手の立場をまったく気にせず、やりたい放題で人生を生きてきた人が母親になるとマム虫化するのだ。
韓国は無限の競争社会のため、周りと協力するより自分が成果を出して他人より上に立つことを目標とする考え方が強くなりがちだ。特に今の30代より下の世代は、大家族の一員だった親世代とは違いひとりっ子や2人きょうだいが大半で、他人に対する気づかいはあまり教えられず、自分を強く主張する環境で育った人が多い。そんな中で「配慮」という概念をまったく知らないまま大人になり、母親となると、こうした社会問題にまで発展するのだ。
日本の若い世代もひとりっ子や2人きょうだいが多いが、韓国と違ってマム虫のようにマナーの悪い母親は多くない。それはやはり日本人は子供のころから「他人に迷惑をかけてはいけない」と教育されるからだろう。隣の国からそういう点を見習うこと、それが今の韓国社会に必要なのではないか。
(文=金民優<キム・ミンウ>/ライター)