小学6年生と中学3年生を対象に、2007年度から文部科学省が毎年実施している「全国学力・学習状況調査」は、別名「全国学力テスト」と呼ばれる。
この全国学力テストの成績で、ほかの都道府県を大きく引き離しているのが秋田県だ。同テストは「国語」と「算数(数学)」の2科目があり、さらにそれぞれ「A」と「B」に分かれている。
17年度、秋田県は小中ともに正答率が全科目で全国平均を3~6ポイント上回り、平均正答率は小中いずれも「国語A・B」で全国1位のほか、他科目でもトップ3に入っている。秋田県がトップクラスの成績を収めるのは、07年度の開始以降10年連続だ(11年は実施見送り)。
しかし、秋田県は全国的に見て通塾率の低い地域だったはずだ。なぜ、全国学力テストで好成績を収めることができるのだろうか。
秋田県の高学力、カギは「無解答率」の低さ
「全国学力テストの結果を比較するなら、正答率を見るだけでは不十分」と語るのは、教育専門誌「教育技術」(小学館)の記者として20年にわたって全国の学校現場を取材してきた矢ノ浦勝之氏だ。矢ノ浦氏は『秋田県式「アクティブ・ラーニング」教師の技11』(同)などの著者でもある。
矢ノ浦氏が着目するのは、秋田県の「無解答率」の低さである。
「全国学力テストは正答率だけでなく、解答欄にどれだけ空欄があったかを測る無解答率の低さも重要です。各都道府県の無答率は、文科省のホームページで見ることができますが、無答率が高い地域は『間違えるのが恥ずかしい』という意識があり、それに対して秋田県は全国学力テスト開始当初から無解答率が低い。その裏には、秋田県と他地域の授業づくりの考え方の違いがあるのです」(矢ノ浦氏)
全国学力テストには、教科ごとに主に知識・理解をテストする「A問題」と主に思考力などをテストする「B問題」の2種類がある。秋田県は学力テスト開始以降ABともにトップクラスだが、近年、差が縮まってきた「A問題」と比べて「B問題」の正答率が相対的に高いという特徴があるようだ。
「A問題は、過去の問題を訓練するなどの“テスト対策”を行えば、ある程度短期間に点数を上げることが可能です。一方、B問題はインプットした知識を活用する能力が問われ、付け焼き刃の対策では通用しない部分も大きいのです」(同)
B問題で測られる活用力は、新学習指導要領(17年告示)でも、その向上が重視されている項目だ。それは、人工知能(AI)の影響などにより、今後大きく変わっていくと考えられる職業の変化を見越したものでもあるという。
「『11年度にアメリカの小学校に入学した子どもが大学を卒業するとき、65%の子どもが、今はまだない職業に就くだろう』というキャシー・デビッドソン(デューク大学教授)の予測は有名ですが、日本でも同様の職業構造の変化を予測する調査・研究があります。
そして、新たな職業では、マニュアルを提示されて与えられた作業をこなすことより、自ら情報を集めて状況を思考・判断し対応を図る能力が求められています。B問題は、このような能力を問う問題といってもいいと思います」(同)