「コロナショックはリーマンショックを超えた」報道は、なぜ間違っている?GDPの読み方
新型コロナウイルスの第4波により、日本国内の感染が概ねイギリス型(N501Y)に置き換わった。イギリス型は感染力が従来型の約1.5倍もあり、若者も重症化しやすいという報告もあるが、より感染力の強いインド型(E484QやL452R)の市中感染も見つかるなか、緊急事態宣言が6月20日まで延長となった。
感染拡大が今回の延長で収束するのか否か、現時点では誰もわからないが、昨年12月下旬の第3波やそれ以前の第1波・第2波から日本経済は相当のダメージを受けており、飲食店や百貨店などを中心として、「これ以上の対策は限界だ」という声も聞かれる。
このため、感染拡大が日本経済に及ぼす影響が当然気になるところだが、その一つの判断材料となるのが、先般(2021年5月18日)、内閣府が公表した「四半期別GDP速報」(2021年1-3月期・1次速報)だろう。この速報値(季節調整)によると、2021年1-3月期の実質GDP成長率は前期比▲1.3%であり、2020年度の実質GDP成長率は前年度比▲4.6%という内容であった。
これまで戦後最大の実質GDP成長率の落ち込みは2008年度の値であり、これはアメリカを震源地とするリーマンショックに起因するもので、その年度の成長率は▲3.6%であったが、今回の▲4.6%という値はそれを上回った。
このため、マクロ経済的に、今回のコロナショックはリーマンショックを上回ったという論調がマスコミで強いが、この見方は正確ではない。これは、例えば、次のような仮想的なケース1とケース2を比較してみるとわかる。
まず、ケース1は、ショック直前まで5%の成長だったが、ショック後の成長率が1%に落ち込んだ場合だ。他方、ケース2は、ショックの直前まで1%成長だったが、ショック後の成長率が▲1%に落ち込んだ場合だ。通常は、ショック後の成長率が唯一マイナスのケース2のほうが、ケース1よりもショックが大きいと判断するかもしれないが、それは間違いだ。ショック前後でケース2では成長率が2%しか落ち込んでいないが、ケース1では4%も落ち込んでいるからだ。
すなわち、ショックの大きさは、「ショック前からショック後にかけての実質GDP成長率の落ち込み幅」で評価する必要がある。内閣府のデータによると、2007年度の実質GDP成長率は1.1%、2019年度は▲0.5%であるから、リーマンショック前後の落ち込み幅は4.7%(=1.1%-▲3.6%)、今回のコロナショック前後の落ち込み幅は4.1%(=▲0.5%-▲4.6%)となる。この数値が妥当な場合、今回のコロナショックはリーマンショックを超えていない。
これは、以下の図表からも一目瞭然だ。この図表は、2001年1-3月期から2021年1-3月期における実質GDP(季節調整値)の推移をグラフにしたものだが、今回のコロナショックでは「558兆円→544兆円」となり約14兆円の落ち込みとなっている。しかしながら、リーマンショックでは実質GDPが「529兆円→482兆円」となり、約47兆円も落ち込んでおり、この落ち込み幅(約47兆円)は約14兆円の3倍以上もある。このグラフからも、リーマンショックのインパクトがいかに大きかったかが読み取れるはずだ。
コロナショックはリーマンショックに匹敵?
もっとも、今回のコロナショックがリーマンショックを超えていないので現状が問題ないというわけではない。現下のコロナ禍は、飲食店や百貨店・宿泊業といった対面重視の業種で働く人々をはじめ、弱い立場にある人々を直撃して苦しめている。休業要請に応じても、協力金の支払いが数カ月も遅延するといった問題も発生している。倒産してから協力金をもらっても意味がなく、この問題は一刻も早く解決する必要がある。
また、これから「四半期別GDP」の2次速報が出て数値が変更になれば、この値が変化する可能性もある。成長率の落ち込み幅で評価する場合、現時点でどちらの数値も4%を超えており、今回のコロナショックがリーマンショックに匹敵するものなのは数値から明らかだ。
感染症対策の基本が徹底した検査と隔離であることはいうまでもないが、経済回復の起爆剤と期待されるワクチン接種のスピードを上げることなど、経済ショックの最小化に向けて、政府には戦略的な対策を期待したい。
(文=小黒一正/法政大学教授)