西日本を襲った「平成30年7月豪雨」では、全国で死者が150人以上(10日現在)に上り、平成に入って最悪の豪雨災害となった。「日本全域で集中豪雨、洪水などのシビアウェザーに十分に気をつけなければならない時代に突入した」と指摘をする災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏に、今回の豪雨災害の教訓などについて聞いた。
――今回の豪雨をどうみますか。
和田隆昌氏(以下、和田) これほどまでに広範囲に前線が停滞し、なおかつ長期間にわたって雨が降り続けたことは、平成に入ってから例がありません。被害を及ぼした地域の状況を考えると、土砂災害の割合が多いです。瀬戸内海と山脈にはさまれた地域に被害が発生していますが、この地域は晴天が多く、普段は雨があまり降りません。この地域に大雨が降ったことで、大きな災害がもたらされました。
「平成26年8月豪雨」は、広島市安佐南・安佐北区で土砂災害・洪水・浸水などの被害を街全体にもたらしましたが、これは「線状降水帯」により雨雲が次々と発生し、激しい降雨となったことが原因でした。今回は「線状降水帯」が次々と西日本で大規模に発生し、記録的な豪雨となり、人的被害をもたらしたのです。
――これだけの豪雨というのは、今後は増えるのでしょうか。
和田 世界的に大気中の水蒸気の量がかなり増えており、それに伴い日本周辺の大気の状況も大きく変化しています。「日本列島は雨増えたよね」と思っている方も多いでしょうが、実際には全体の降水量はそれほど増えておらず、単位時間における降雨量が増えたのです。これは、日本だけではなく、世界的にみられる傾向であり、シビアウェザーと呼ばれ、極端に多く雨が降る地域がある一方、逆にまったく雨が降らない渇水状態に陥る地域が発生しています。人間が生活しにくい気象が、今後とも続きます。
被害に遭われた方々からは、「今までこの地区にこんなに雨が降った経験がない」「自分の経験則では、これほどの雨が降ったことがないので大丈夫だろうと思っていた」などのコメントが聞かれます。過去の気象情報に惑わされてはいけないのです。これからは自分の経験則はあてになりません。過去の気象情報は役に立たないですから、みなさん心してシビアウェザーと対峙しなければなりません。
全国どこでもシビアウェザーに要警戒
――東日本でもシビアウェザーが到来するのでしょうか。
和田 もちろんです。これまで東北や北海道では大規模な洪水被害はないといわれてきました。ここ数年、最大降雨量に顕著な変化が起きています。東北や北海道でも台風が上陸するケースもあり、北海道ではかつて考えられなかった豪雨や高潮被害が起きており、農業に大打撃を与えています。ですから、シビアウェザーは西日本の問題としてとらえるのではなく、東日本でも十分に発生するという心構えをしておかなければなりません。
――東京でのシビアウェザーの可能性は?
和田 もちろんあります。ただし、東京や神奈川県は地下に巨大貯水槽をつくるなど、ほかの地域と比較して治水・洪水対策を強化しています。これまで1時間50ミリの降雨に対処することを目標に対策を施してきましたが、2005年9月、杉並区、中野区などを中心に約6,000棟の被害をもたらした1時間100ミリ超の集中豪雨が発生したことを受けて、順次そのレベルの豪雨にも対応できるように治水・洪水対策が進んでいます。ですから、仮に東京でシビアウェザーが発生したとしても、今回の「平成30年7月豪雨」と同等な被害がもたらされるかといえば、そうとはいえません。もちろん、「絶対安全」というわけではありません。
――今回の豪雨で、行政面の課題などはみえたでしょうか?
和田 「平成26年8月豪雨」で被害を受けた広島市安佐南・安佐北区では砂防などの治水対策がなされていて、この地域では被害が少なかったです。実は、治水対策は対処療法で、災害が発生してから対処することが多いのです。岡山県倉敷市で大水害がもたらされた地域でも、洪水が発生することが予見されており、国土交通省が堤防などの地域対策を予定していましたが、間に合わなかったのです。地方自治体は予算との兼ね合いもあり、対策が後手になることが多いです。日本は急峻な河が多く、治水対策は進んでいますが、もう一段階進んだ治水対策が必要です。
また、地方では山を削った場所での宅地化が進められています。開発をすればするほど土砂災害が発生しやすくなります。本来、住宅地としては適さない土地でも開発を進めています。被害が発生するとわかっているにもかかわらず放置していることについては、地方行政にも一定の責があると考えられます。広島の土砂災害の危険箇所は約4万9,500で日本1位です。日本全土で経済を優先して開発を進めた結果、土砂災害のリスクを高めてしまったかもしれません。私たちは、住宅を購入した場所で人命を損ないかねない災害が起こる可能性があるという現実と真摯に向き合うべきでしょう。
――個人として、豪雨への対策をどのように備えておくべきでしょうか。
和田 やはり、地域に潜むリスクを考えて居住し、リスクを踏まえた上で避難を早めるという小規模な対策しかできません。洪水被害は人為的要素が大きいです。事前に情報もつかめます。浸水被害には必ず理由があります。河川の周辺や海抜の低いところに住めば、浸水被害に遭う可能性があります。自分の生活圏の洪水被害のリスクを把握しておかなければなりませんし、災害時を想定して情報収集をしておくべきです。
行政もハザードマップについては一生懸命につくっていますが、受け手側と送り手側の双方に意識の変革が必要です。水害に対しては命にかかわることですから、シビアウェザーと向き合いつつ、気象情報を収集して理解することが肝要です。正常性バイアスという言葉がありますが、都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまうことが人間にはあります。最悪の事態を考えて積極的に行動を取らないと、被害に遭うリスクが高まります。
(構成=長井雄一朗/ライター)