賛否が飛び交ったものの17日間の日程を終え、閉幕した東京五輪。
そんななかで、五輪期間中は空前のメダルラッシュに日本の各メディアは湧いた。日本の選手団は27個の金メダルを含め、歴代最多となる58個のメダルを獲得。中止や再延期すべきといった声も聞かれた大会前からは一転し、いざ始まってみれば五輪一色といっても差し支えないほどメディアは連日、日本選手の活躍を報じた。民放は言うに及ばず、NHKでさえ“お祭りムード”の報道に終始していたことからも、その異常な熱が伝わってきた。
その一方で、懸念された新型コロナ感染者数に目を向けると、東京都では一日に新規感染者数が5000人超えを記録するなど全国で1万5000人に達し、過去の数字を大幅に上回るものとなっている。専門家のなかには、パラリンピックの頃には、さらに多くの感染者が出る可能性が高いと指摘する向きもある。
だが、すでに医療崩壊を起こしている東京の医療体制についての報道は、大会中はかなり限定的だった。そして、五輪が閉幕したタイミングを見計らったかのごとく、自宅療養の是非を問いかけるような報道が目立ち始めた。閉幕した五輪の振り返りとコロナの感染爆発の惨状を、メディアで働く人たちはどう見ているのか。その声を拾ってみた。
オリパラ担当として働く全国紙ベテラン記者は、史上最多のメダル数となった今回の日本勢についての評価は「慎重になるべきだ」と話す。現場で競技を見ていたからこそ、調整不足や今回の五輪にかける各国の向き合い方に温度差を感じたという。
「もちろん、日本のアスリートたちのがんばりは素晴らしかったです。その前提のもとですが、今回の大会では明らかに調整不足な競技やチームもありました。特にメジャースポーツほど、その傾向は強かったといえます。例えば、男子サッカーでは本来のメダル候補であるドイツやアルゼンチン、フランスといった強豪国は、選出された選手の質も含め、パフォーマンスの悪さは明らかでした。テニスでも、大坂なおみやノバク・ジョコビッチらを含む有名選手があっさり敗退しました。
さらに、コロナにより有力選手が参加辞退などで離脱した競技もありました。これはホームアドバンテージというよりは、各国の五輪に関する向き合い方の違いが大きいといえます。そもそも、突貫工事・見切り発車のような形で開催した今回の五輪で、選手に100%のパフォーマンスを求めるのは酷です。そのうえ、日本勢は調整過程や猛暑への適応などで、アドバンテージがあったのも事実です」
コロナ関連報道を強められなかった理由
そんななかでメディアが正しい姿勢で報道に臨んでいたかというと、疑問符が付くと前出のオリパラ担当記者が続ける。
「開催前に各紙は、メダルラッシュになった場合にどう報道するか、ということに頭を悩ませました。特に、新型コロナ感染者が明確に増えた際、新聞としてはどう報じるか、ということは難しい問題でもあったからです。懸念していた感染爆発が現実となりましたが、競技と切り離して報じる社が多かったように思います。
しかし、コロナ禍で行われた五輪においては、切り離して報じるスタンスは正しくない、という意見もありました。社説なども含め、しっかりと問題提起していたのは朝日新聞くらいでしょう。社会部も含めて五輪へ記者を大量投入した社も多かったなか、『本当にこれでいいのか』という葛藤を抱えながら、取材に臨んでいた記者も少なくありませんでした」
今回は直近まで放映権の配分が明らかにならなかったこともあり、テレビ局も編成に悩まされた面がある。特に五輪中継については巨額の放映権料が動き、スポンサー問題や裏番組との兼ね合いもあり、苦悩したという社が多い。だが、テレビ朝日を除けばワイドショーなどでも基本的には大会に関して肯定的な構成が中心だった。その背景について、民放プロデューサーが解説する。
「まず昨年の新型コロナ感染拡大が始まって以降、ずっとコロナを中心とした番組構成で数字(視聴率)の調子が良かったという事情があります。そんななかで地元での五輪開催という特別な期間に入ったわけですが、ここでまたコロナで大変な状況にあるという内容を流すのは“希望がなさすぎる”とのジレンマがあります。
そして、スポンサーに関しても今回の五輪については、『基本的には要望を出さない』というスタンスの社が目立ちました。だから、スポンサーへの忖度があったかと聞かれれば、ないともいえる状況でした。結果的に巨額の放映権料を払っているという局の事情、地元開催の五輪を盛り上げようという制作側の意向もありました。
コロナについては、今後もずっと報道を続けていくことは目に見えているので、五輪期間中は必要最小限にしようとの思惑が働いたといえます。もちろん、感染者増については、これからしっかりと検証していかないといけませんが」
もっとも、メディアのなかでも感染爆発が起きているという事実を指摘する声もある。五輪開催に伴い感染者が増えたことは、メディアにとっても他人事ではなかったようだ。テレビ朝日関係者が言う。
「緊急事態宣言前から、『極力、会食は減らせ』という指示がありましたが、西麻布などで朝の番組スタッフが集団で会食していたということもあったそうです。さらに今回、閉会式後に五輪担当スタッフ10人がカラオケ店で深夜まで飲酒を伴う宴会を開いたうえ、女性社員がビルから転落して左足骨折の重傷を負う不祥事を起こしました。
感染者が増えている現状と、会食の有無の関係はあるでしょう。うちに限らず、民放各局でも感染者がかなり増えたと聞いています。テレビ局としても、コロナ感染者増の報道を強められなかったのは、そんな側面もあるとみています」
五輪で過去最高のメダル数を獲得した一方、五輪開催の前後で東京の感染者が3倍に増加したのも、また現実である。間もなく始まるパラリンピックで、その教訓を生かしたいところだ。
(文=編集部)