やはり神戸市の先生たちは、今でも懲りていないようだ――。
2019年秋、神戸市立東須磨小学校で発覚した「教員間いじめ・暴行事件」は、すでに事件から2年という時間を経過しながらも、そのいじめの壮絶さ、そして加害教員4人のうち実行犯の2名が懲戒免職となる一方で、”女帝”と呼ばれた首魁の女性教諭と、使い走り格の若手教諭が、教諭の身分のまま神戸市教育委員会(以下、市教委)へと異動、2021年7月現在も「(神戸市教諭の身分のまま市教委にて)事務の仕事を行っている」「元気に勤務している」(市教委関係者)という後味の悪さから、多くの人たちの間で今なお記憶に残っている。
さて、このいわゆる「神戸市教員間いじめ・暴行事件」の詳報や後日談は、すでにさまざまなメディアで報じられているのでそちらに譲るとして、この事件発覚から市教委による加害教諭への処分が下されるまでの間に浮き彫りになったことがある。
それは、まるで昭和の時代を彷彿とさせる組織の隠蔽体質と徹底的に身内を庇う神戸市の教職員や市教委の組織風土だ。
神戸市教職員OB・OGや、一般行政職として市教委に勤務経験のある神戸市職員らによると、神戸市では他の地方自治体では例をみないほど教職員が専門職集団として厚遇されており、神戸市教員OBの子弟は採用試験時も採用後も徹底して守られる傾向にあるという。元神戸市立小学校校長経験者は、その実態をこう話す。
「私らOBが若手教員時代、指導を受けた校長や有力教員の子弟となると、どうしても採用時から一目置く。採用後もそれは変わらない。一般の会社でも同じではないですか?」
なるほど、こうして聞くと、先の「教員間いじめ・暴行事件」後の処分で、神戸市の有力教員の家系だという”女帝”が教壇には立てないものの、「神戸市教育職員」としてその職にとどまることが認められ、徹底的に庇われたことに納得がいくというものだ。こうした神戸市教職員たちの体質は、事件を契機になんら改められることなく今に続いている。
「熱心な指導」で知られる教諭は問答無用で児童を吊し上げ
「他の子見てみ、みんな頑張っとうで!なんで遅れたんや!!」
2020年秋、神戸市立長田小学校(岡山隆志校長)では、X教諭が、学校で実施されている「朝の挨拶運動」の活動に遅れてやってきた児童を、大勢の児童が集まっている場において、約30分も立たせたまま睨み付け、大声で叱責。凄み、反省の弁を述べることを強要したという。感情に任せて怒るX教諭に児童は気圧され、怖くて何も言えなかったようだ。
「後で聞くと、この児童は、母親の体調が悪く、同じ小学校に通う妹の世話や家事を手伝っていたというのです。その事情を丁寧に聞き取りもせず叱りつけたというX教諭の指導は適切とはいいがたいです」
こう語るのは、長田小関係者だ。この関係者によると、事件が発覚したのは今年5月に入ってからだという。
児童は大きなショックを受け、また、先生から叱られたことで、自分が悪いことをしたという気持ちから保護者にその事実を話さなかった。そのため、偶然この事実を知った保護者が、先にも触れたように今年5月に学校側に事実関係の確認と共に、「これは体罰ではないか」との苦情を申し立てた。
令和の時代、長時間立たせる、大勢の児童の前で吊し上げ目的の叱責を行うこと、これは体罰と認定される可能性が極めて高い。
神戸市では、どういうわけか似たような事案が頻発している。今年に入ってからだけでも、同様の事案での体罰が横行、49歳の女性中学校教諭と25歳の男性小学校教諭の2名に懲戒処分が下されており、文書訓戒など公表されていない事例も含めると、さらにその数は増えるという。
いずれにせよ、人権意識が高まっている今の時代、児童・生徒を長時間立たせる、ましてや大勢の前で吊し上げるなどは、もってのほかである。
長田小側は事件の矮小化に躍起
「この申し立てを受けて、校長らはX教諭への聞き取りを進めました。同時に市教委へも報告はしたようです。ただ不思議なことに、当該児童本人への聞き取りは行いませんでした。X教諭への聞き取りのみです」
以下、前出の長田小関係者の話を基に筆を進める。
通常、このような事案では、加害・被害どちらの当事者からも聞き取りを行うものだ。これをしなかった理由のひとつは「昨秋の話でもあり、また児童にそれを思い出させるのは酷だ」という”児童への配慮”だ。
だが、それ以上に「事件をできるだけ早く解決させ、X教諭に頑張ってもらおう」という”X教諭への配慮”に尽きるという。
「若手ながら、熱心な指導で知られるX教諭を守りたいとの校長の親心、それと管理職としてこれ以上長田小で問題を起こしたくなかったという心理もあったかもしれない」
ここでいう「これ以上、問題を起こしたくない」とは、2018年に起きた給食室での火災が背景にある。授業時間中に起きた火災である。校長としての管理責任は免れない。元神戸市立小学校の校長経験者は、次のように長田小校長を慮る。
「長田小は神戸市の中でも伝統校で、同校の校長を無事に勤め上げれば、次はさらに大きな学校の校長や教育委員会での栄達も望まれる。それらが難しくても、昇級や叙勲に影響する。定年後はOBの会合でもそれなりに遇される。大過なく過ごしたいと誰しも思うもの」
火災事故、そして教員による体罰……、同じ校長の下で、これだけ不祥事が続けば、やはりその指導力を問われる。校長としては、さぞ、「学校内での話」として収めたかったところだろう。
だが、その方法が間違っていた。X教諭のみの聞き取りを市教委に報告、事件の矮小化とはならなかったからだ。
「どうやら保護者が市教委に直接苦情を申し立てたようです。それで7月19日に長田小内で、校長と総務(教頭に次ぐ学校内ではナンバー3的立場)が、保護者と児童から聞き取りを行いました」(長田小関係者)
この席には市教委教職員課の服務・監察担当の職員と神戸市学校法務専門官(弁護士)が立ち会ったという。
「保護者からの強いリクエストだったと聞いています。校長にとっては面目丸つぶれでしょうね」
校長が児童に全責任をなすりつける
長田小関係者によると、今年5月の時点で保護者からの手紙を受け取った校長はX教諭への聞き取りを行ったが、徹底して「体罰の事実なし」という方向性で事態収拾を目指した。
そのため、保護者への書面での返答には、以下のような趣旨を記したという。
・X教諭が、大勢の児童を特別に集めて、反省の弁を述べさせたという事実は確認できなかった
・おそらく別の場でX教諭から反省の弁を述べさせたことを当該児童が勘違いしているのだろう
事件があれば、その責任を誰かが取らなければならない。校長が責任を取りたくない場合、その責任をなすりつける相手が、部下である教諭ではなく児童というところが、令和の時代といったところか。
「学校内でも、それはまずいのでは……という声はありました。校長はただただX教諭の話を鵜呑みにして市教委に報告するし、教頭は今年度着任したばかりだから事情がわかっていない。もっとも、総務教諭は児童からも聞き取ってきちんと市教委に報告すべきだという方針だったようですが」
結局、7月19日の長田小で行われた市教委立ち合いの下で行われた聞き取り調査では、学校側の隠蔽体質、校長の無策ぶりが暴かれる格好で終始したという。
市教委・弁護士立ち合いの下で進められた児童への聞き取り調査
「校長が保護者に宛てた手紙で、『大勢の児童を特別に集めて』という言葉が決め手です。保護者からの問い合わせでは、そうした言葉は書かれていなかったのに、なぜ校長はこの言葉を使うのか」
この席上では、事件をなかったことにされそうになった児童が、「校長先生が話を聞いてくれず、僕を嘘つき呼ばわりしたことが悲しい」と言ったが、校長は表情を崩さず、何も答えることなかったという。
それはそうだろう。火災事故に続いて体罰事案まで露見すれば、校長にしてみれば、これは先でも触れたように将来を左右する。その腸は煮えくり返っている。何も言えるはずがない。
もうひとりの当事者、X教諭もまた同じだ。懲戒処分にでもなれば、今後の教員人生、昇給も望めないし、転任先でも「不祥事を起こした教員」として色眼鏡で見られる。なんとしてでも処分は避けたいところだ。
このX教諭について長田小の保護者のひとりは、記者の取材に次のように答えた。
「突然、アポイントなしで自宅に来られたり、夕方の忙しい時間帯にメールで済むような話を電話で長々と話す」
これをもって熱心な指導というのが”神戸市クオリティー”なのか。学級指導では、しばしば児童に対して「大声を出すこともあった」(長田小児童)という。
神戸市教育委員会が調査中
現在、この長田小の体罰疑惑事件について市教委では、すでに校長、X教諭、そして総務教諭らの聞き取りも済ませており、そう遠くないうちに処分が決まる見込みだ。
ここできちんとした処分を下し、誰もが納得する説明をしなければ、もはや神戸に住む子育て世代は去っていく。それを神戸市教育委員会は考えるべきだ。
神戸市以外の町に住む人も、よその地方での出来事と軽視せず、自分たちの住む地域でも起こり得ることとして受け止め、注視することで、わたしたちの住む社会の教育は良くなっていく。ひいては誰もが住みやすい社会の実現へとつながっていくはずだ。
(文・写真=鮎川麻里子/フリーライター)