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片田珠美「精神科女医のたわごと」

原宿竹下通り暴走男、無差別大量殺人を計画か…他人巻き添えに“人生最後の打ち上げ花火”を狙う

文=片田珠美/精神科医

 当然激しい怒りを抱く。そこに、「破滅的な喪失」と本人が受け止めるような出来事が起きると、強い復讐願望が芽生える。「破滅的な喪失」とは、本人が「もうダメだ。自分の人生はもう終わりだ」と絶望するような出来事である。

 加藤死刑囚にとって「破滅的な喪失」となったと考えられるのは、職場で「おれのツナギがないぞ」と怒って途中退社したことだ。この出来事については、彼自身が「事件の引き金だった」と供述している。ただ、その数日前に契約解除の通告を受けていたことが伏線としてある。このように、失敗や失業、別離や離婚などの喪失体験を「破滅的な喪失」と受け止めることが多い。

「誰でもいいから巻き添えにして最後に打ち上げ花火を上げたい」という心理

「破滅的な喪失」が引き金となって、無差別大量殺人に走るわけだが、見逃せないのは、その後押しをするのが自殺願望ということだ。この自殺願望は、「破滅的な喪失」によって一層強まった絶望感から生まれる。

 それでは、自殺したいのなら、なぜ1人でおとなしく死なないのか? これは強い復讐願望による。復讐願望が強いと、「1人でおとなしく死んだら敗北者。誰でもいいから巻き添えにして最後に打ち上げ花火を上げたい」という心理が働くからである。

 日下部容疑者も、復讐願望が強いからこそ、無差別大量殺人をもくろんだのだろうが、その胸中には強い怒りと欲求不満が潜んでいたはずだ。したがって、何に対して怒りと欲求不満を抱いていたのか、他責的傾向はどの程度強かったのか、どのような出来事を「破滅的な喪失」と受け止めたのか、本当は誰に対して復讐したかったのか、などについて今後の取り調べで明らかにすべきである。
(文=片田珠美/精神科医)

 参考文献
片田珠美『無差別殺人の精神分析』新潮選書 2009年
片田珠美『拡大自殺―大量殺人・自爆テロ・無理心中』角川選書 2017年
Levin, J., Fox, J. A. : A Psycho-Social Analysis of Mass Murder. In O’Reilly-Fleming ed. : Serial & Mass Murder – Theory, Research and Policy. Canadian Scholars’Press. 1996

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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