「俺は政局に強い」――。スタート時から安倍・麻生傀儡政権と揶揄されてきた岸田文雄首相だが、実はそう思っているらしい。
10月31日に投開票された衆院選で想定ほど議席を減らさなかったことから、岸田首相は俄然、強気になってきた。小選挙区で敗北して幹事長を辞任した甘利明氏の後任に茂木敏充氏が就任することになり、11月10日に発足した第2次岸田内閣で、代わりの外相に衆議院に鞍替えしたばかりの林芳正氏を起用した。林氏は岸田派の座長でナンバー2。気心の知れた側近に近くにいてほしいということのようだが、それだけではないだろうと見る自民党ベテラン議員もいる。
「岸田派内で岸田氏と林氏は、総理総裁を狙うという意味でライバル関係にあった。岸田氏が一足先にポストを掴んだわけだが、林氏が事実上の派閥トップに留まっていれば派内の求心力が林さんに集まり、自らを脅かす存在になりかねない。閣内に取り込めば、首相と外相は一蓮托生。林氏の外相起用には、岸田氏のそうした思惑もあるだろう」
岸田首相は林氏の外相起用にあたって、安倍晋三元首相を出し抜いてもいる。11月5日の段階で、岸田首相は安倍氏と麻生太郎副総裁に、林氏を外相に起用しようと考えていることを電話で伝えている。その際、安倍氏は林氏起用案に難色を示した。林氏が日中友好議員連盟の会長を務めていることから、「対中関係で国際社会に間違ったメッセージを与えかねない」というのが理由だったと報じられているが、安倍氏が地元・山口で林氏と長年の敵対関係にあることも影響している。林氏が政権で力をつけていくことは安倍氏にとって面白いはずがない。
だが、岸田首相は林氏の外相起用を押し切った。安倍氏から意見は聞いたものの、スルーしたのだ。
公明党案を潰した岸田首相
岸田首相は連立を組む公明党に対しても強気だ。
「18歳以下の子供や若者に現金10万円を一律支給する」という公明党の選挙公約は、結局、「現金5万円とクーポン5万円、所得制限960万円」に修正されたが、その経過は、世論の反発を背景にした“公明案潰し”の様相だった。
10月5日に読売新聞が一面トップで「18歳以下現金10万円支給 コロナ支援策 所得制限なし 政府・与党方針」という記事を掲載。与党内で調整した結果、方針が固まったという内容だった。
公明党にすれば選挙公約に書いてあるのだから実施は当然、ということだったのだろうが、世論も自民党内も「一律10万円」には反発。自民党の高市早苗政調会長が記者らを前にして「困窮世帯に現金給付とした自民党の公約とは違う」と抵抗した。
最後は11月10日に岸田首相と公明党の山口那津男代表が党首会談して、修正決着したのだが、世間には公明党の公約が愚策だったと印象付けることになり、公明党の評判を下げる結果となった。公明党関係者はこう言って苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。
「岸田首相は最初から所得制限を付けるつもりだったのだろう。新聞報道は観測気球だったのか。首相は自らの手を汚すことなく公明案を潰した。昨年4月の全国民への10万円支給では、自民党政調会長だった岸田氏が主導した『生活困窮世帯に30万円支給』の閣議決定に公明党が再考を求め、覆った経緯がある。あの時のリベンジなのか。岸田氏と公明党には、安倍政権や菅政権の時のような強いパイプがない。水面下で調整すべきものまで表でやり出したら、自公間の齟齬が次々と露呈しかねない」
したたかな顔が見え出した岸田首相。安倍氏も公明党のことも、手のひらの上で転がせると思っているのか。
(文=編集部)