婚外子の遺産相続違憲判決めぐり議論沸く「対応分かれ不合理」「突然の遺産相続要求」
法律上婚姻関係のない両親から生まれた「婚外子」(非嫡出子)の相続について、「法律婚の子(嫡出子)の2分の1」とする民法の規定をめぐる裁判で、最高裁大法廷が今月4日、法の下の平等を定めた憲法に違反しているとして、無効とする判断を下した。この規定を合法とした1995年の判例を覆すこの決定とその影響について、各メディアが大きく報じている。
裁判で争われていたのは、2001年7月に死亡した東京都の男性と、同年11月に死亡した和歌山県の男性の遺産分割審判。9月5日付日本経済新聞によれば、どちらも、法律婚の妻と内縁関係の女性、それぞれの間に子供をもうけていた。
今回の大法廷の決定は、日本で法律婚制度が定着していることを認めながらも、家族の形態や国民の意識が多様化し、諸外国でも「差別撤廃」が実現していることなどを総合的に考慮。「父母が婚姻関係になかったという、子供にとって選択の余地がない理由で不利益を及ぼすことは許されないという考えが確立されている」と指摘し、裁判の対象の相続が発生した01年7月には、すでに違憲だったと結論づけた。政府は早ければ秋の臨時国会で、民法改正案の提出を行う見込みだ。
これについて、「そもそも違憲判決を出すのが遅すぎた」とする意見も目立つ中で、気になるのは、「すでに決定済みの事案についても『違憲』と判断されるのか?」ということだ。今回の決定によれば、すでに遺産分割が決着している事例にも違憲判断の効果が及ぶとなると「著しく法的安定性を害する」として、仮に裁判所にやり直しを求めても、再分割は認めない方針。立命館大学の二宮周平教授は、5日付東京新聞で「同時期に亡くなった人の相続で、対応が2つに分かれてしまうのは不合理だ。最高裁は影響を最小限にしようと苦渋の選択をしたのだろうが、すでに解決した婚外子の相続も、同じ違憲無効として扱うべきだ」と指摘している。
この最高裁判決の直前に、法律相談のポータルサイト・弁護士ドットコムが弁護士を対象に実施したアンケートでは、95%が「違憲」を支持する姿勢を表明。弁護士の間では、最高裁が違憲と判断したことを当然と受け止める空気が強かったとしている。
他方で、インターネット上ではこの決定を受け、ジャーナリスト・水間政憲氏が7月に自身のブログで発表した「『非嫡出子遺産相続平等法』は究極の日本解体法になります」との記事が拡散するなど、一部で「日本社会の伝統が崩壊する危険性がある」ことを危惧する声が上がっている。
水間氏を含む反対派は、今回の決定を08年秋の臨時国会での国籍法改正と合わせて考えるべきだと主張。この改正は、日本人男性が認知すれば、婚姻関係のない外国人女性の間にできた子供に対し、日本国籍を与えることができるとしたもので、DNA鑑定などの科学的証明も要さなくなる。水間氏は、「国籍法の改悪で、中国女性や韓国女性が『あなた(資産家)の家庭に迷惑をかけないから国籍だけを子供に認めて、とのことで、認めていた子供が父親の死後、突然、『非嫡出子平等遺産法』をたてに遺産請求してくることを可能にする」(原文ママ)と懸念を表している。
こうした危惧に賛同するネットユーザーも少なくないようだ。「婚外子」に対するイメージの偏りも感じられるが、外国人に限らず、夫に先立たれた女性のもとに「ご主人の子供だから、財産を平等に分割してくれ」という愛人の子供が現れたとして、それを認めることができるのか、という議論も巻き起こっている。
高裁家庭局の発表によれば、12年末現在、遺産分割をめぐり全国の家裁に係属中の審判や調停は計1万1224件で、このうち婚外子の格差規定が問題となっているのは176件だという。当然、現在においても過去においても、裁判によらず、当事者間の話し合いで遺産分割を決定したケースは膨大な数になるだろう。5日付朝日新聞で東北大学の水野紀子教授が指摘したように、その場合には「本当に『解決』したのかどうかがあいまいな場合が多い」。今後、次々と争いが起きる可能性も否めないところで、今後も議論が続きそうだ。
(文=blueprint)