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ロシア資源と中国の巨大市場に依存、なぜ欧州の経済成長モデルは崩壊を始めたのか?

文=中島精也/福井県立大学客員教
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ロシア資源と中国の巨大市場に依存、なぜ欧州の経済成長モデルは崩壊を始めたのか?
「gettyimages」より

 欧州はドイツを中心に長年にわたりロシアとの経済関係の緊密化を進めてきたが、ウクライナ戦争を契機に一転してエネルギー制約という危機に直面している。欧州によるロシア制裁の報復としてガス供給が停められたからである。欧州が消費する天然ガスのロシア依存率はウクライナ戦争前の2021年には45%にも達していたが、これだけの量を他の地域で代替するのは厳しい。欧州は中東産油国からの液化天然ガスに切り替えようとしているが、LNG船の建造、港湾のLNG設備構築など容易ではない。

 なぜここまで欧州はロシアへのエネルギー依存を高めてきたのだろうか。それをリードしたのはドイツであるが、フランスも同じく欧州の大国は、もともと欧州の安全保障の構築にはロシアの参加が不可欠という伝統的な考え方を有しており、米ソ冷戦の時代ですら、ブラント西独首相のようにNATOとワルシャワ条約機構を解体して、新たな欧州安全保障体制の構築を夢見た政治家もいたくらいである。

 近年、とみにドイツとロシアの関係強化が進んだきっかけは2003年の米国によるイラク侵攻であり、国連の承認を得ないで軍事侵攻した米国にシュレーダー独首相が異議を唱えて、ドイツは多国籍軍に参加しなかった。これに怒った米国との関係悪化が結果的にシュレーダー首相をプーチンに接近させて、ノルドストリームの建設というプロジェクトにつながっていった。シュレーダー後もメルケル首相がプーチンとの良好な関係維持に努め、ノルドストリーム2の建設にまで進展していった。

新冷戦への移行

 一方、インド太平洋地域では中国が法の支配の否定、力による一方的な現状変更、台湾武力侵攻を示唆しており、国際社会で中国への警戒感が急速に高まっている。2017年の中国共産党大会で習近平総書記が建国100年の2049年までに社会主義現代化強国、すなわち世界の覇権国家になると発言するなど、露骨に米国から覇権を奪う姿勢を示したことから、それを境に米国の対中スタンスは一変し、1972年のニクソン訪中以来続けてきた対中関与政策の停止に踏み切った。それ以降、先端技術、重要な戦略製品・部品、ソフトの中国向け輸出禁止や中国企業の排斥などを進めている。

 欧州も中国の新疆ウイグルでの人権侵害、香港の民主派弾圧は看過できないものであり、また、インド太平洋地域の安定は世界の安定にも直結するとして、日米との合同軍事訓練への参加、独半導体企業の中国への売却禁止の決定など、専制国家中国との経済関係の見直しを進めている。

 しかし、ウクライナ戦争と米中覇権争いの結果、ポスト冷戦が終わり、新冷戦への移行が決定的となった。その結果、欧州がこれまで築いてきた独自の成長モデル、すなわちノルドストリームに代表されるエネルギー源をロシアの天然ガスに依存し、生産された工業製品の輸出先として巨大な中国マーケットを想定する欧州成長モデルの崩壊が避けられなくなった。欧州経済にとっては長期的視点から由々しき事態である。

 また、足元では物価上昇率が2桁に達するなどインフレが加速、ECBの金融引き締めも強化されており、欧州経済は極めて厳しい状況に直面している。皮肉にもロシア制裁の直接の被害者は欧州自身だとして、市民、政府、EU加盟国間でも不協和音が高まりつつある。EU加盟国政府は連立政権が多く、外的ショックがあると、意見対立から政局不安に陥りやすい。ウクライナ戦争は欧州に経済的打撃だけでなく政治情勢の不安定化をも持ち込むことになった。この混乱は容易には解決しそうにないと思われる。

(文=中島精也/福井県立大学客員教授)

中島精也/福井県立大学客員教授

中島精也/福井県立大学客員教授

1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ドイツifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストを経て現職。丹羽連絡事務所チーフエコノミストを兼務。著書に『傍若無人なアメリカ経済─アメリカの中央銀行・FRBの正体』(角川新書)、『グローバルエコノミーの潮流』(シグマベイスキャピタル)、『アジア通貨危機の経済学』(編著、東洋経済新報社)、『新冷戦の勝者になるのは日本』(講談社+α新書)等がある。日経産業新聞コラム「眼光紙背」と外国為替貿易研究会「国際金融」に定期寄稿。

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