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ウクライナ侵攻、泥沼化はロシアの戦略どおりだった…進行する「核兵器使用」計画

文=ジェームズ斉藤
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ロシアのプーチン大統領(「Wikipedia」より)
ロシアのプーチン大統領(「Wikipedia」より)

 ウクライナ戦争におけるロシアのあまりの脆弱ぶりに、その軍事力を侮るような発言が有識者の間でも散見されるようになってきた。しかし、ロシアはこれまでヨーロッパ各国が束になっても勝てなかったナチス・ドイツやフランスのナポレオン軍にも勝利している国である。ウクライナに相手に苦戦するのはあまりにも不自然ではないだろうか?

「ロシアはいま負けているように見えますが、プーチンはいま高笑いしているはずです。ロシア国民が戦場で死ぬこともなんとも思っていないでしょう」と語るのは現役諜報関係者として世界各国で活動するジェームズ斉藤だ。彼はウクライナ戦争が始まる前、多くの有識者が「ロシアの侵攻はない」と言っている時に「ロシアは絶対に侵攻する」という分析を日本で出し続けていた、ただ一人の分析官なのだ。そのジェームズ斉藤がウクライナ戦争におけるロシアの本当の狙いについて徹底分析する。

 ウクライナ戦争を見ていてロシアは思っているほど強くない、杜撰な作戦ばかりで本当は弱いんじゃないか、と思っている人は多いでしょう。しかし、本当にロシアは弱いのでしょうか? 私は長年、某国の諜報機関に所属してロシアを含む多くの情報の分析をしてきましたが、ロシアに関していま西側諸国の評論家やマスコミが流している情報は、あまりにも諜報の現場とかけ離れているように思えます。

 誤解を恐れず言えば、巷で広まっているウクライナ戦争の捉え方やプーチン分析は、はっきり言ってかなり的外れです。確かにいまの軍事バランスを見るとウクライナのほうが士気が高くて、いい武器を持っています。ロシア軍を木っ端微塵にやっつけています。しかし、それが「戦略」レベルで負けにつながるかというと、それはまた別の話なのです。いま世界が注目しているのは「作戦」と「戦術」のレベルの話で、戦争は「戦略」を見ないといけません。なぜなら、「戦術」を見ても未来はわからないからです。

 戦術というのは戦闘において部隊を効果的に運用する技術のことで、一言で言えば現場での勝ち負けを左右するものです。しかし、ロシアの戦争を戦術でみると必ず痛い目に遭います。それはナポレオンがロシアとの戦いで苦汁を舐めたことでもわかりますし、第二次世界大戦でナチス・ドイツも同じ苦杯を味わっています。ナポレオンもナチスも最初は快進撃を続け、ロシアは後退に次ぐ後退でした。ところが、蓋を開けてみれば、いずれの戦いもロシアの勝利で終わっています。

 これを歴史の教科書では「ロシアの土地が広く、どこまでも後退できたから」「ロシアの冬を乗り越えることができなかったから」といった理由をあげることで勝利の要因としていますが、それはあまりにも浅慮です。ロシアは土地が広く、冬が厳しいというのはその通りですが、それを戦略として使っているのがロシアです。後退して泥沼に嵌め込む。これがロシアの戦略なのです。レーニンの著作に『一歩前進、二歩後退』というタイトルのものがありますが、まさにロシア的発想で、ロシアの戦略思想の本質をうまく捉えています。

 そして、この戦略に嵌めるために必要なのが杜撰な作戦による初戦からの負け戦です。実際、ウクライナでもそうだったはずです。勢いがあったのはウクライナ東部に侵攻した最初だけで、中心部を攻めるにつれて戦車部隊は次々と破壊されていきます。何万人という兵士が死に、指揮を取る将軍までも何人も戦死したというニュースで溢れました。

 この結果を受けてプーチンは生き残った将軍や諜報部員たちに対して「3日で終わらせるはずじゃなかったのか!」と怒鳴ったという話が出てきたり、クレムリン内部でクーデターが画策されているといった話が西側メディアで盛んに流れるようになりました。こういう状況を見ていれば、誰でも「ロシアは実は弱かったんだ」と思うのは当然でしょう。そして、「まもなくウクライナ戦争は終わるだろう」と思うようになったはずです。

 ところが、ウクライナ戦争が始まって8カ月以上経っている現在、戦争はまったく終わる気配がありません。それどころか、いまではロシアが戦術核を本当に使うのではないかと多くの西側メディアが報じるほど、戦況は悪化しています。

 西側メディアやロシアの軍事専門家といわれる人々はずっとロシアは劣勢だと言ってきました。ウクライナは勝利できると言っていました。しかし、結果は泥沼です。もちろん、泥沼化を予測したロシア評論家たちもいました。ただし、その理由は欧米の軍産複合体による武器の消費地としての役割であり、西側の武器屋の暗躍を指摘する程度のもので、分析としては浅いものにしかなっていないのです。戦争を泥沼化することで儲けたいという軍産複合体の思惑は当然ありますが、それだけがこの戦争が長引く理由ではありません。もっと積極的な理由があって、それがロシアの「戦略」なのです。

国民を大切にしないロシア

 ロシアの戦略が西側になかなか理解されないのは、クレムリンの戦略の一つに「ロシア人は死んでくれていい」というのがあるためです。信じられないかもしれませんが、本当にあるのです。もちろん明文化されてはいませんが、クレムリン内では常識です。また、ロシアの歴史を振り返ると、それが見えてきます。 

 つい最近もありました。先日、ロシアが行った予備役の一部動員がそうです。報道では戦場に30万人もの人間を送ったとされていますが、実際には120万人もの国民に動員がかかっています。ところが、この動員した兵士が次々と戦死しています。理由は何の訓練もせずに戦場に送っているからです。ロシアの報道では十分な訓練を行っていると言っていますが、なんの訓練もしていないことは多くの西側メディアが報道している通りです。この報に接して、ロシアがまた杜撰なことをやっていると思った人も多いでしょう。

 しかし、これは普通に考えておかしな話なのです。いくらロシアが杜撰だと言っても、何の訓練もしていない兵士を戦場に送っても役に立たないことぐらいわかります。それで戦死者を増やしでもしたら現場の指揮官やその上の幹部、将軍にまで責任が飛び火してくるでしょう。ロシアだからといっても、やっていいことと、やってはマズいことぐらいわかるのです。それでなくとも、120万人もの人間を戦場に送ったら、貴重な働き手を失ったロシア経済は大きな影響が出ます。いくらロシアがでたらめな国でも、そのぐらいのことはわかります。であるのに、なぜ、ろくに訓練もしていない人間を戦場に送るのか? その答えが「ロシア人は死んでくれていい」なのです。

 クレムリンがこのように考えるもとには、ロシアという国の成り立ちがあります。実は、ロシアという国は異民族が支配層となって常に土着で多数派住民であるロシア人を支配してきた歴史があるのです。大昔のルーシの時代にロシア人貴族が貴族同士の利権争いに明け暮れて永遠に国がまとまらないので、異民族を連れてきて支配者に据えたのです。これをきっかけにしてロシアの地はずっと少数の異民族が支配する国になってしまいました。

 事実、ロシアの地は古くはモンゴル人が支配者でしたし、リューリック王朝はヴァイキングが支配しています。ロマノフ王朝もドイツ人でした。ソ連になってからはレーニンなどのユダヤ人が君臨してきました。そして、現在の支配者であるプーチンも実は隠れユダヤ人です。プーチンの隠れユダヤ人説は諜報機関関係者の間では長らく囁かれていましたが、私自身、複数のユダヤ系のクレムリン関係者から直接聞いており、なんとクレムリン内では常識だそうです。

 つまり、ロシアはロシア人が支配したことのない国なのです。一般のロシア人は常に無力で支配される側だったのです。時代と共に農奴やプロレタリアなど、形は変われど、「ロシア人は単なる労働力」というのが歴史的な流れだったのです。ロシアで、ずっと国民が大事にされてこなかった理由はここにあります。そして、21世紀になってもその状況は変わっていないのです。

 ロシアという国を考える時に最も注意しなければいけないのは「西側の常識は通用しない」ということです。これを常に念頭に置かないと、ロシアを見誤ってしまいます。「いくらロシアであっても国民が大量に死ぬのはマズいだろう」と西側の人々は無意識にそう思っています。まさか、ロシアが国民の命を何とも思っていないなどとは考えがたいのです。だから、杜撰な戦術で戦争に負けて後退しているロシアと判断してしまうのです。

 しかし、いまの時点でプーチンは戦場で勝ちを演出することにあまり興味を持っていません。その逆に、負けていいと思っています。なぜなら、いまのクレムリンの戦略は、戦場で国内の不満分子を一掃することだからです。

 クレムリンに不満を持つ人間というのは20代、30代、40代の男性です。彼らが革命や政府転覆を画策するわけですから、そうなる前に戦場に送って死んでもらう。これがいまのクレムリンの狙いなのです。少数の異民族が支配する国ですから重要なのは国民ではありません。政権の維持こそが最も重要なことで、そのために国民が多少死んでもクレムリンは痛くも痒くもないのです。

ロシアが核兵器を使いたい理由

 さらに、もう一つ、杜撰な作戦で後退に次ぐ後退は、クレムリンのもう一つの欲望を満たすための布石になります。それが核兵器の使用です。

 私はウクライナ戦争が始まった当初からロシアは核兵器を使う可能性があると言ってきました。理由はアメリカがすでに使っているからです。アメリカは第二次世界大戦中に日本の広島と長崎に核爆弾を落としています。人類史上、核兵器を戦場で使った、人間に対して使ったのはアメリカだけなのです。これによってアメリカは世界の覇権を握ったわけです。核兵器の使用は超大国の証なのです。どこの国にも一言も文句を言わせない超大国の力なのです。ずっとアメリカと覇権を争ってきたロシアとすれば、アメリカだけがそれを実現させていることに我慢できないのです。

 事実、9月の四州併合の際の宣言で、プーチンは「アメリカは広島、長崎に原爆を落としたことによって核使用の前例を作った」と言っています。これは、アメリカが作った前例をロシアが踏襲することに何の支障があるのか? という意味の発言になるわけで、プーチンも核兵器を使いたいと痛烈に思っていることが見えてきます。

 では、ロシア国民はどうでしょうか? プーチンが超大国の証として核兵器を使うことにノーの気持ちを抱いているのでしょうか? さすがに21世紀の現代で核兵器を使用することはリスクにしかならないと思っているのでしょうか?

 私は違うと断言します。何年か前に、モスクワの赤の広場で行われた戦勝記念日の軍事パレードに出席したことがありますが、その時のある光景が忘れられません。あの軍事パレードで一番盛り上がったのは核を搭載したICBMが登場した時でした。ロシア国民は核兵器を見て熱狂するのです。私のすぐ横にいたある年配のロシア人バーブシュカ(お婆さん)などは『戦勝記念日』という有名なロシア軍歌を興奮のあまり高らかに歌っていました。ロシア人にとって核兵器は危険なものではないのです。「欧米を焦土化することができる頼もしい味方」というイメージなのです。ですから、プーチンが核兵器の投下を命令しても、ロシア国内では「それはさすがにヤバいだろう」ではなくて歓迎すると思います。「やっと使ってくれた」と言って。

 ですから、核兵器に対するロシアと西側諸国の感覚のズレを理解していないと、核兵器の使用に対しても間違える可能性があるのです。西側の人々はどこかで核兵器は使えないと思っていますが、ロシアは使えないなどとは微塵も思っていません。むしろ、ロシアにとって核兵器とは「抑止のためではなく、攻撃用」であり、アメリカが作った前例にならって一刻も早く使いたい、という積極的な感覚を持っていることを理解する必要があります。

核兵器使用のためのドクトリン

 ロシアには核兵器を使うための明確な条件が設定されています。核戦略ドクトリンというもので、どんな条件なのかというと、1)ロシア及び同盟国に対する核兵器を含む大量破壊兵器の使用に対応する時、2)外国の通常部隊、陸軍の戦車部隊などがロシアの領土を侵略し、ロシアの国家存亡を揺るがすような事態が起きた時に核兵器の使用が許される、という明確に定義された2点からなっています。

 ですから、ロシアがウクライナ東部の四州を併合したことは核兵器の使用のための大きな一歩を踏み出したことを意味します。なぜなら、この四州はロシアにとっては本土ですが、ウクライナにとってはロシアに不当に占領された土地だからです。是が非でも取り戻したい土地ですから、奪還作戦が展開されています。ウクライナが奪回しようとすると、国家の命運をかけたレコンキスタになりますので、当然通常兵力が大規模に展開され、大量破壊兵器でもって攻勢をかけるまでエスカレートするかもしれません。そしてロシア軍はまたもや杜撰な作戦によって後退を余儀なくされています。

 さらに、ロシアは天然ガスのパイプラインであるノルドストリームも破壊されました。クリミア橋も破壊されました。ロシアはこれをウクライナによるテロ行為だと決めつけています。しかし、この2つの事件はロシアの自作自演である可能性が極めて高いのです。

 といっても、この2つはロシアにとって重要なインフラですし、ロシアの主張はあくまでウクライナによるテロ攻撃ですから、ここでもロシアの国家存亡を揺るがすような事態が起こり始めている、ことになるのです。同時に、自作自演のテロの連続は「ウクライナが大量破壊兵器を使った」というロシア側による偽旗作戦も可能にしかねない事態です。つまり、ロシアの核戦略ドクトリンを根拠に現状を無理やり作り上げているということです。

 事実、ここ最近になってクレムリンが「ウクライナが汚い爆弾」を使うかもしれないと騒ぎ立て始めました。これは本格的にロシアが「ウクライナの大量破壊兵器使用」という自作自演からなる偽旗作戦をやり、核兵器使用をする根拠を積み上げているのです。こうやって見ていくと、ロシアはウクライナ戦争をきっかけに核兵器の使用のタイミングをずっとはかっているように見えるのです。

 ロシアは核兵器を使用するかもしれないではなく、核兵器を使う口実を懸命に作っているというのが正しい判断です。戦略思考というのは目的から現状を振り返り「何をいかになすべきか?」を考え出す、逆算思考です。諜報分析というのは、「プーチンの戦略思考」を見破ることであり、ロシア的な発想を基に分析しなければなりません。そして、いま日本がするべきことは、日本独自の常識を捨て、「プーチンは狂っている」等の現状認識に修正をかけることです。現状認識が間違っていると全てを勘違いします。正しい状況判断ができて初めて、いかに日本としてロシアの核兵器使用を阻止させることができるかが判断できます。

(文=ジェームズ斉藤)

ジェームズ斉藤

ジェームズ斉藤

某シークレットセミナー教官。某国諜報機関関係者で、一切の情報が国家機密扱い。国際ニュース裏情報の専門家。

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