人気芸能人が有名私立小学校に進学する子どもの入学式に向かう様子をキャッチした写真が週刊誌を賑わせるのは、毎年春の風物詩になっているが、彼らはいかにして、ときに志願倍率10倍以上となる受験競争を勝ち抜いているのか。その対策に、子どもが0歳の頃から総額で数百万円を費やすケースもざらではない「お受験」。コネや多額の寄付金が必須という噂が飛び交うなど、謎のベールに包まれた有名私立小学校の受験の実態に迫る。
慶應義塾幼稚舎、慶應義塾横浜初等部、早稲田実業学校初等部、学習院初等科、雙葉小学校、聖心女子学院初等科、桐朋小学校、暁星小学校、青山学院初等部、立教女学院小学校、東洋英和女学院小学部――。数多く存在する私立小学校の入試は毎年11月頃に行われ、たとえば人気の高い慶應幼稚舎(2022年の募集人数:男子96名、女子48名)の志願倍率は男子・女子ともに10倍を超える年も珍しくなく、受験競争の熾烈さがうかがえる。
私立小学校の入試項目はペーパーテスト、行動観察、指示行動、運動、音楽・リトミック、絵画・工作、口頭試問、そして面接とさまざまで、学校ごとに異なる。たとえば慶應幼稚舎は行動観察、運動、絵画のテストが課される一方、ペーパーテストと面接がない。一方、同じく慶應系列の慶應義塾横浜初等部や早稲田実業小、暁星小はペーパーテストが課されることで知られている。
コネの実態
有名私立小学校への進学をめぐってはコネが合否を大きく左右するともいわれるが、お受験コンシェルジュ・戦略プランナーのいとうゆりこ氏はいう。
「たとえば慶應幼稚舎の場合は入学者の7~8割がコネによるものと考えたほうがよいです。受験されるお子さんの祖父と父親が2代にわたってOBですと、入試で大きな加算要素となり、合格できる確率がぐっと高くなります。父親が慶應系列の中学~大学OBで大企業のそれなりの役職にいたり、お勤め先が同窓会組織である慶應連合三田会の大会のスポンサー企業であったりと、なんらかのかたちで慶應に貢献している場合もコネが利きます。
三田会の大会に参加するには福引券付きの1口1万円(5枚つづり)の大会券を購入する必要があるのですが、勤務先の慶應OBに数多く売りさばいたり、三田会大会の幹事を務めた実績がある場合などもコネがあると認められます。このほか、慶應義塾の評議員も推薦枠を持っているといわれており、自身が評議員であったり、評議員の方を評議員選挙でお手伝いしたりしていれば、その枠を使える可能性もあります。
一方、同じ慶應系列でも慶應義塾横浜初等部は、親が書いて提出する願書の内容に加え、ペーパーテストをはじめとする試験の点数が重視されるため、いくら強いコネがあっても試験の点数が基準に届かなければ不合格となりますし、暁星小や早稲田実業小も同じ傾向があります。このほか、学習院初等科では、いわゆる家柄や親のお勤め先なども重視されたりと、入試でどのような要素が重視されるのかは学校によって大きく異なってきます」
もし自身や親が志望校の出身ではない場合、こうしたコネをつくることはできるのだろうか。
「慶應幼稚舎の入試に強いことで知られる御三家と呼ばれる幼稚園があり、各園は慶應幼稚舎への一定数の推薦枠を持っています。ただ、それらの幼稚園に入園するには第三者の推薦状が必要なので、そのために必要な人脈をつくる必要はあります」(いとう氏)
ちなみに「ある高卒の人気ミュージシャンはお子さんが通う有名幼稚園で、先生方や保護者などを対象としたワンマンライブを行い、志望する小学校への推薦枠を獲得した」(受験業界関係者)という話もあるという。
お受験対策
慶應幼稚舎の例でいえば7~8割がコネによる入学ということは、残りの2~3割は純粋に試験の点数で合格した子どもということになるが、どのような対策を行えばよいのだろうか。
「小学校入試に強いとされる専門の教室、たとえば体操教室であれば『K』や『I』、幼児教室なら『H先生』の教室や『J』、絵画教室なら『A』や『O』などがあり、そこにお子さんを通わせるのが近道ですが、関係者しか入れないところもあり、その意味ではここでもコネが必要になってきます。こうしたお受験対策の教室に通うほか、バイオリンやピアノ、空手、バレエ、水泳など、幼い頃から熱心に取り組む『軸』を1本、持つことが重要です。入試では受験する子どもが『軸』を持っているか、豊かな表現力を持っているのか、親御さんが手塩にかけて子どもを育てているのか、家庭が円満かどうかが試験官に見極められ、採点要素になってきます。こうした部分は子どもが普段から養っていないと、いきなり試験で言葉として出てくるものではありませんが、3歳くらいの頃から親が意識して学ばせていれば、自然と子どもに身についてくるものです。
具体的にどの学校を第一志望にして、どのような対策をすべきかは、各ご家庭の経済状況やお勤め先、祖父母の代まで含めた学歴など、さまざまな要素を考慮して検討される必要があるため、ご自身だけで判断することは難しいです。できるだけ早い段階で専門家などに相談することをおすすめします」(いとう氏)
寄付金は必要?
もっとも、子どもがペーパーテストなどの成績が良いからといって、「人気校だけどコネが重視されない」という理由だけで安易に受験校を選ぶのはリスクもあるという。
「コネが重視されないある人気の私立小学校は、毎年のように校長が交代して教員の離職率も高く、校内が荒れ気味でトラブルが絶えないといわれています。小学校・中学校・高校まで含めると12年間通うことになるので、志望校選びにおいては入学後の学校生活がどのようになるのかについての情報収集も重要になってきます」(いとう氏)
では、小学校受験をめぐる噂でよく取り沙汰されるもう一つの要素、寄付金についてはどうか。
「基本的には寄付金によって合否が左右されることは『ない』と考えてよいです。各学校法人へは卒業生や在校生に限らず誰でも寄付を行えますが、ある親御さんが熱心にお受験の対策をされて寄付金も入れて、お子さんは純粋に入試の点数が良くて実力で合格したにもかかわらず、周囲に『寄付金のおかげで合格できた』と話し、それが伝わり信じられているというケースは多いです。基本的に名門といわれる系列校とその出身者たちのつながりは『心』によって形成され、それゆえにコネクションが重視にされる。お金の話ではないのです」(同)