システムエラーとみられる株の大暴落があり、株価が下落した企業の株を買い求めた客がSBI証券から差額の支払いを求められている、との情報がSNS上で駆け巡った。渦中の証券会社に話を聞くと、真相はまるで異なるもので、そもそも株を安く購入した人は存在しないという。
日本時間の6月3日深夜、米電力設備会社のニュースケール・パワー(SMR)の株価が大暴落した。一瞬で約98.5%も下落し、あまりにも不自然な株の動きから「システムエラーではないか」との見方が広がったものの、「安く買えるものなら大量に購入して、すぐに売り抜ければ大きな利益が得られる」との考えが広がった。
2005年12月8日に、ジェイコム(現ライク)の株をめぐって、みずほ証券が「61万円で1株売り」とすべき注文を「1円で61万株売り」と誤表記したことで、大量の売り注文が入り株価が暴落。そこで大量の買い注文を入れて大儲けをした投資家がいた。この事案では、ヒューマンエラーに加えてシステムの不備も重なったが、多くの売買は成立していた。
この事例を知っている投資家たちからは、「システムエラーでも売買が成立すれば利益は得られる」との見方が広がり、積極的に買い注文を入れたほうがいい、との声がネット上にあふれた。
だがその後、安値で買い注文を入れた投資家が、「暴落した価格はシステムエラーによるもので、本来の価格との差額を支払うようにSBI証券から請求されている。支払うまで口座を凍結すると通告された」との情報が流れた。
情報元はSNS上で強大な発信力を誇るインフルエンサーの滝沢ガレソ氏だ。ガレソ氏は5日、次のように投稿した。
<米国市場にて、一部企業の株価がシステムエラーで99%下落
↓
5ch民「うおおおお祭りや!買え買え買え!」
↓
5ch民「どの証券会社も不具合が出て株が買えない……でもSBI証券からだけは買えた!よっしゃこれでワンチャン億万長者や!」
↓
SBI証券「ただのエラーなので安く買った人は不足金払ってね。あ、不足金が払えない人は払うまで口座動かせないようにしとくからw」
↓
5ch民「ファッ!?!?」(今ここ)>
米国市場にて、一部企業の株価がシステムエラーで99%下落
— 滝沢ガレソ (@tkzwgrs) June 5, 2024
↓
5ch民「うおおおお祭りや!買え買え買え!」
↓
5ch民「どの証券会社も不具合が出て株が買えない……でもSBI証券からだけは買えた!よっしゃこれでワンチャン億万長者や!」
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SBI証券「ただのエラーなので安く買った人は不足金払ってね。… pic.twitter.com/1lQz356xiZ
株価暴落の原因がシステムエラーであることがほぼ明らかであっても、売買が成立していれば、表示されていた価格で株を購入できるはずではないのか。あるいは、仮に暴落した価格で売買することが株式市場の安定性を損なう恐れがある場合、取引が取り消されることはあっても、差額を支払うまで口座を凍結するという行為は非合理的で横暴ではないか、との声が噴出している。
SBI証券は事実関係を否定
そこで、Business Journal編集部はSBI証券・経営企画部に事実確認のために取材を申し込んだ。すると、SMRの株を大暴落した価格で購入した人に対し、差額を支払うように求めているとの情報は事実ではないと否定した。
「滝沢ガレソ氏がXに投稿した件だと思いますが、複数の事実誤認がございます。まず、SMRの株を売買できる状況にあったのは弊社だけではありません。楽天証券やマネックス証券でも売買できる状況だったと聞いています。また、日本と違いストップ高・ストップ安がない米国市場でSMRの株が約99%も株価が暴落したのは事実ですが、その暴落した価格で購入できた方はいません。成行注文(編注:株価を指定せずに注文すること)をした人はいたかもしれませんが、暴落した時点の価格で売買が成約している人はいなかったのです。したがって、売買が成立した時点での代金をお支払いいただく必要はありますが、安く購入した方に、追加で支払いを求めて口座を凍結したというのは事実ではありません。滝沢氏には投稿したポストの削除を求めていきます」(SBI証券)
さらに、仮に発注が通っていたとしても証券取引所などから株取引の取り消しが入る可能性があるとして、証券会社が口座を凍結することはないとの見解を示している。
売買が成立した時点の株価がいくらだったのか、投資家と証券会社の見解が分かれれば司法に判断をゆだねなければ解決は難しいのかもしれない。いずれにしても、システムエラーを機に起きたトラブルであり、特別な救済策があってもいいのかもしれない。
(文=Business Journal編集部)