実際、諸外国では、かなり前から情報をいかに集めるのかでしのぎを削っている。特に日本企業が進出している東南アジアでは熾烈だという。
とはいえ、技術職や研究職にでも従事していない限りは、「自分には遠い話」と考えている当事者意識の薄いビジネスパーソンも多いことだろう。日本は情報の扱いについて完全に乗り遅れている感があり、そんな考え方の人は珍しくない。しかし、情報を入手しようと画策している企業は、そのように油断している人を狙い撃ちにしてくるのだ。
実際にシンガポールで、ある日本企業が韓国、中国、タイなどの企業も参加するプレゼンが行われた時に、こんなことがあった。大規模な交通システム機器の受注がかかっており、各社ともに他社を出し抜こうとする雰囲気があったという。この時、日本企業の担当者は情報が漏れていることに気づいたそうだ。
●中国企業の情報窃盗手口
「以前に接点のあった中国の電機メーカーも、プレゼンに参加していたんです。その企業の技術力からすれば、受注は難しいはずだと思っていたのですが、どうやらうちの会社との打ち合わせで、一部技術を盗んでいたようなんです」(日本のメーカー社員)
その手口は、最初のうちは協力的で、受注に当たっての見積もり額もかなり安く出してくる。具体的な内容の打ち合わせを繰り返していき、図面や仕様などの情報をつかむと「条件が合わない」などと難癖をつけて連絡を断つという方法だ。その際に狙われていたのは、営業担当者だったようだ。技術者ではないが、情報資料を持参して交渉に当たっている。契約を結ぶために、設計図面などを相手に示したり、時には資料を一部複写させたりしたそうだ。情報を持っていることに対する当事者意識の低さを狙われたわけだ。
入札結果は、日本企業に軍配が上がったというが、その時のことを前出の部品メーカー社員は次のように語る。
「さすがに精度の差は明らかでしたから、当然の結果といえます。ただ、恥ずかしかったのは、シンガポールの企業の担当者から『契約書を交わして金が振り込まれるまで、気を抜かないほうがいい』と諭されたことですね。自社のセキュリティ意識の低さに、我がことながら、あきれてしまいました」
営業担当の社員の情報管理が甘かったということで、社内では取引先にも安易に資料を渡さず、打ち合わせ後には全資料を引き揚げることなどを徹底するように指導されたという。