・平日深夜や休日に突然電話をかけてきて呼び出す上司と、競うように駆けつける「忠誠心の強い部下」。
・「志や直感が大事だ。ビジネスプランなんかいらない」と事あるごとに豪語する社長と、その社長の下でプランをつくり献身的にサポートするスタッフ。
・社員が残業中、フラッと戻ってきた社長が「みんな、これから焼肉を食べに行こう」と誘い、残業を放り出して付いていく部下一同。
こうした関係は、企業の「一体感」として日本企業では“美徳”ともされてきた。社長や上司の号令の下、一所懸命、みんなで同じ目標に向かって力を合わせる「一体感」は、かつての高度経済成長期においては、組織の勝利の方程式だった。
しかし、バブル崩壊後は、こうした“美徳”がたくさんの組織、会社の成長を妨げているのではないかというのは、『「一体感」が会社を潰す 異質と一流を排除する<子ども病>の正体』(秋山進/PHPビジネス新書)だ。
「私は、これまで経営・組織コンサルタントとして、大手企業を中心に多くの会社のオフィスの内側で社員の人たちと一緒に働いてきました。(略)みんな仲間といいながら、見えないバリアが張り巡らされ、失敗を反省せず何度も同じ失敗を繰り返しています。もともとは賢い人たちのはずなのですが、やっていることは、いかにも子どもっぽいのです。しかも特定の会社がそうだというのではなく、ほとんどの会社で同様の現象が起こっています」
目の前の変化に適応できていない人や組織が過去の成功モデルにしがみつき、かつて合理的であった仲間内の『一体感』を高めようとし、子どもっぽい思考や行動、組織のあり方を続けている。それを“子ども病”と呼んでいる。
本来は大人の仕事場であるはずの会社において、“子ども病”の社員たちは、子どもの仲良しグループのように馴れ合い、一流の人材や組織に苦言を呈する人間を排除し始める。新しいアイデアや付加価値を生み出す「異質性」「多様性」を排除してしまうのだ。
●自立と自律
本書において著者は、大人の組織になるために、それぞれが「自立」と「自律」という2つの「ジリツ」をすべきだという。
「自立」とは、社会にとって価値ある人材として認められる、仕事の腕や技術力そのもの。製造に関する技術だけではなく、営業、人事など全職種に必要なスキルを指す。「自律」とは、自分なりのやり方や世界観を身に付けて、行動することだ。
「かんたんに言ってしまえば、経済的に自立できるだけの技術をもっていて、自分で必要だと認識してつくりあげた規律を守れる人が大人ということです」
自立は「一人前」「一流」と進み、自律は「自律」「統合律」(自分なりの考え方や世界観と、社会や組織のやり方とを高いレベルで統合すること)と進む。その先には「超一流」か「プロフェッショナル」が待っている。
グローバル化の時代、「異質」や「超一流」を使いこなすことこそが、新しい競争力の源泉になる。経営者や上司は、そのことをもっと自覚すべきなのかもしれない。
(文=和田 実)