「オーク200」は、大阪市が港区のJR弁天町駅前に広がる3へクタールの市有地を土地信託で開発した複合商業施設で、1988年に現在のりそな銀行、三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行の3行と土地信託契約を結び、93年に全面開業した。当初は30年間にわたり約273億円の配当を得る計画であったが、バブル崩壊による景気悪化や賃料値下げなどで業績は悪化を続け、配当は一度もなかった。
この間、2013年3月末に約680億円にまで膨らんだ負債について受託3行が大半を肩代わりしており、その補償を市に要求していた。一審の大阪地裁では13年3月、銀行側の請求通り637億円の支払いを大阪市に命じる判決を下したが、市側は不服として大阪高裁に控訴していた。
潮目が変わったのは今年3月。同じく大阪市が住之江区に建設した土地信託事業「オスカードリーム」に関する訴訟で、大阪市は土地信託を受託していたみずほ信託銀行と和解し、受託元本相当額の約283億円をみずほ信託に支払うことで合意した。「オスカードリーム」は大阪市交通局がバス車庫跡地の開発に土地信託を活用し、大規模商業施設を建設。その事業収益から30年計画で配当を受け取る予定であったが、バブル崩壊の煽りを受け、95年の開業以降赤字が続き、一度も配当はなかった。「オスカードリーム」と「オーク200」の構図は同じだ。
「オスカードリーム」をはるかに上回る規模の「オーク200」について、このまま裁判を続け、数年後の最高裁で敗訴した場合、市議会では「利息等を含めた支払額は788億円に膨らむ」と試算されていた。「さらに傷口が広がる前に和解に持ち込んだほうが得策と判断した」(大阪市関係者)ことで、大阪高裁の和解勧告を受け入れた。
●橋下市長のしたたかな戦略
だが、市の財政がひっ迫する中、645億円もの補償金を支払うことは容易ではない。補償金は信託期間が終了する15年3月末から10年分割で支払うことになっており、大阪市は土地・建物を売却するなどして財源を確保する考えだが、資産売却で補えず一般会計からの支出に追い込まれれば住民の批判は避けられない。橋下市長も「(645億円は)市民の負担になる。これだけのお金があったら、いろいろなことができた。本当に申し訳ない」と陳謝している。
しかし、本来であれば頭痛の種となるこれら土地信託の巨額な補償金支払いについて、橋下市長は強気の姿勢を崩していない。「大阪市役所は、こういうことの連続。ガバナンスが効いていない。大阪市役所を適正な規模に整理して、選挙で選ばれた区長・区議会のもとできちんと組織を統治する都構想が必要」と、土地信託事業の失敗を逆手にとって、持論である大阪都構想に結び付けようとしている。
橋下市長は「オーク200」の裁判が決したこの機をとらえて、外部調査チームを立ち上げ、他の土地信託事業も含めた責任の所在を明らかにする方針を示している。ただでは転ばないのが橋下流。まさに「災い転じて……」という、したたかな戦略がみてとれる。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)