チャリティーの輪はアメリカ国内にとどまらず、プロサッカー選手のクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)やネイマール(ブラジル)など、世界中に拡大した。特にネイマールは、2014FIFAワールドカップ(W杯)・ブラジル大会において、腰椎骨折の大けがを負わされた因縁の相手、フアン・スニガ(コロンビア)にバトンを渡したことも大きな話題となった。同様に、マルコ・マテラッツィ(イタリア)が、2006W杯・ドイツ大会決勝で頭突きを受けた相手であるジネディーヌ・ジダン(フランス)を指名、日本でも三浦知良が1998W杯・フランス大会で本大会出場メンバーから自身を選考から外した当時の日本代表監督の岡田武氏を指名するなど、遺恨を水に流す役割としても、アイスバケツチャレンジは用いられている。
●日本でも急拡大
8月に入り、日本においてもアイスバケツチャレンジは急拡大している。ホリエモンことライブドア元社長の堀江貴文氏、作家の乙武洋匡氏、京都大学教授の山中伸弥氏、ソフトバンク社長の孫正義氏などの著名人をはじめ、タレントの田村淳(ロンドンブーツ1号2号)、歌手の浜崎あゆみ、作詞家の秋元康氏など、芸能界でも氷水をかぶる人が続出している。
『孫正義氏 氷水をかぶる』
動画URL http://youtu.be/co6fiJf8o1k(「YouTube」より)
この企画がいつまで続くのかはわからないが、一方で、こうした動きに反対する声も増えている。実際、インターネット上では、今回の企画に疑問を投げかける意見も散見される。
「一過性のブームに乗ってお祭りのように騒いでいるだけに見える」
「氷水をかぶったからといって支援にならないのではないか」
「指名されたら拒否できない空気になってきている」
ALSの知名度を上げることが目的なのであれば、それはすでに達したとし、もうひとつの目的である寄付だけ行えば十分ではないか、というものが代表的だ。また、運動に大義があり、イベント的に盛り上がるほど、拒否しにくい雰囲気が醸成され、半ば強制的に水をかぶらされる可能性がある。
歌手の大江千里は、自身のブログで「ハリウッドのセレブがやってるからとかで、そのままやっちゃう日本の芸能人ってけっこういるじゃないですか? 底が浅いなってつくづく思う。物事の本質を理解できてない。その心意気が純粋なまま、自己責任で全部未来永劫きちんと背負えるのであれば、まったくnone of my business(俺の関係ない)なことだし、逆にそれは勇敢で素晴らしいけれど」と述べ、世の中の流れに任せて水をかぶることについて疑問を投げている。
実業家の堀義人氏は、「ALSのアイスバケッツかぶりが盛んだ。かぶった人々は認知度アップに貢献し、寄付のみの人々は財政的に貢献している。ALSを含む難病を撲滅するために、皆がそれぞれに貢献すれば良いと思う」とし、ALSのみならず、個人が自発的に社会貢献することの重要性を説いている。
●変化の兆しも見え始めてきた
そんな中、田村亮から指名を受けたタレントの武井壮がチャレンジを拒否し、話題となっている。武井はツイッターで「キャンペーンで指名されて寄付行為をしないと決めています。自分の思う優先順位で自分の頂いた給与の中から寄付する先、金額を決めているだけなので、何も考えを変えることはありません」と指名拒否の理由を述べた。
しかし、「このキャンペーンで多くの人がALSを知り、多額の寄付が集まった事は素晴らしいと思います。これを世界に広めた著名人の皆様や寄付及び参加された皆様の行動に敬意を表したいと思います。私は少し違う形で支援致します」と、活動自体を否定しているわけではないと説明し、自身の立場に理解を求めた。
これに対し、ネット上では武井を称賛する意見が続出し、過熱するアイスバケツチャレンジは、わずかに変化の兆しを見せている。
一方、フジテレビに対し、お祭り騒ぎに便乗していると批難の声が上がっている。秋元氏から指名を受けたフジテレビ亀山千広社長が、水をかぶった後にタレントの宮迫博之(雨上がり決死隊)を指名し、昼間の情報番組『バイキング』生放送中に氷水をかぶるように指示。宮迫は22日の同番組放送中に氷水をかぶった。さらに後ろから3杯もかけられるなど、もはや、本人の自発的な意思によるALS支援ではなく、番組演出に利用している様相を呈していた。
日本ALS協会は、「ALSアイスバケツチャレンジは、ALS患者と患者団体を支援する募金イベントです。アメリカから始まり他の国を経て、先週末頃から日本で急激に広がっています。それにより、これまでALSを知らなかった人たちから協会へ問い合わせやご寄付のお申し出をいただいており、心より感謝しております。頂いたご寄付は、ALS患者や家族が安心して療養が続けられる社会のために、大切に使わせていただきます」とコメントを発表し、好意的に受け止めている。
ALSという耳慣れない病気の認知度を上げる効果は間違いなくある。事実、ALSへの寄付金は、昨年同時期に比べて10倍に上っているという。この動きが、継続されるかどうかが、今後の課題だろう。
(文=マサミヤ)