●L型大学で地域活性化
前出・冨山氏の提案書では、経済圏には、製造業や大企業を中心としたグローバル経済圏(Gの世界)と、中堅・中小企業を中心としたローカル経済圏(Lの世界)があるという導入から始まる。そしてその日本のローカル経済圏の労働生産性が先進国の中で最低レベルであることを問題視しており、生産性を上げるための方策としてL型大学を提唱している。
ローカル経済圏を支えているのは労働集約型産業が中心で、ジョブ型雇用(時間・仕事内容が限定的な雇用)が多い。地域密着型産業で、従業員は地元の工業高校や商業高校を卒業した高卒生であることが多い。
ところが、このローカル経済圏に上位校以外の大学生が就職活動をする動きが出てきた。主にグローバル経済圏からあぶれた学生たちだ。企業側からすると、高卒生よりも大卒生のほうが能力は高いと期待し、この動きを歓迎していたと見られるが、実はここに大きな落とし穴が潜んでいた。高卒生といえども、就職活動の際には成績優秀者から内定が出る傾向にあるのは大卒生と同じで、AO入試(学科試験以外に、出願者の個性や適性などで合否を決定する入試方法)などで簡単に大学に入学し、受験勉強すら満足にせず、4年間遊んですごした大卒生などは、高卒生より基礎学力が低い例もある。学歴と学力が逆転しているのだ。
つまり、上位校以外の大卒生は、グローバル経済圏の企業からは門前払いを食らい、ローカル経済圏の企業では、高卒生と同等かそれ以下の能力しかないというレッテルを貼られるようなことになりかねない。
冨山氏の分析では、現在、労働人口が都市部に集中し、ローカル経済圏は労働力不足が深刻化しているが、それは地方に仕事がないためではなく、「相応の賃金」「安定した雇用形態」「やりがいやプライド」が欠けていることが原因だという。これは単に量的な意味での仕事を増やすのではなく、労働生産性を高めなければ問題は解決しない。
そのような状況を打開するために、高等教育の大改革として上位校以外の大学は、「新たな教育機関」に吸収されるべきという。それがL型大学であり、生産性向上に資するスキル保持者の輩出機関としての職業訓練なのだ。そして生産性が向上すれば、長期的に雇用は増加傾向になると考えられる。一方、グローバル経済圏では、世界トップクラスしか生き残れず少数精鋭化されていき、雇用は長期的には漸減傾向となると予測されている。
●L型大学では実践力を教える
提案書では、L型大学は、「学問」よりも「実践力」を身につけることを勧めている。例えば、文学部系では、観光業で必要となる英語、地元の歴史、文化の名所説明力を学ぶべきだと説いている。「これが大学で学ぶべきことなのか」という批判があるが、ローカル経済圏であれば、L型大学生が就職活動で戦う競合相手の高校生・専門学校生は、これらを教科として学んでいる例も多い。そうすると、就職活動の時点で明らかに負けてしまうことになる。
採用担当者の立場になってみればよくわかる。すでにスキルを持っているか、これから教育を施す必要があるのかを考えると、スキルを持っている学生に内定を出すだろう。