ここ数年、「バイトテロ」という言葉がにわかに広まりました。飲食店や小売店で、バイト従業員が店の商品や食器、調理器具などを使用して悪ふざけする様子を写真に収め、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿し、社会問題となる事象を表す言葉です。インターネット上で「バイトテロ」と検索すると、非常に多くの不適切な画像が現れます。
業務上で知り得たこと、業務に関する事項をネット上へ書き込むことを一切禁止している会社もあります。しかし、「私の働いているお店の商品はとてもおいしいので、ぜひ皆さんに知らせたい」「私の工場ではとてもまじめに製造しているので、世の中に伝えたい」などといった前向きな投稿も禁止してしまうことになります。
「人の口に戸は立てられぬ」という言葉があります。ネットが普及する前のことわざですが、現在では良い情報も悪い情報も一瞬で広範囲に拡散してしまいます。
「賞味期限が切れた食材を使用している」「一度お客さまに提供して、戻ってきた料理を使い回している」などといった管理ミス、企業体質による不祥事は、企業内の透明性を保つことで防げると思います。
しかし、バイトテロのように「SNS上で目立ちたい」といった動機から行う、従業員の個人的な投稿を防ぐには、どのように教育すればよいのでしょうか?
それは、従業員教育の中で「会社は誰のものか」を正しく理解させることと、仕事をする上で必要な心構えといった基本的な教育が必要になります。
「ほめたたえること」の重要性
いい仕事をしてほめられると、非常にうれしいものです。子供の頃、学校のテストでいい成績を取った時や運動会で活躍した時、仲間や親がほめてくれましたが、社会人になってしまうと、なかなかほめてもらえないものです。年を重ねると勲章などが欲しくなるのは、子供のころに花丸が欲しかったのと同じ感覚なのかもしれません。
筆者はアメリカの企業で仕事をしたことがありますが、アメリカの企業は人をほめることを大切にします。売り上げ目標を達成した時や良い仕事をした時などは、全員で拍手をし、陰で人のためになる仕事をしている人を見かけた時は、「ありがとうカード」を書いて掲示板に掲示します。また、毎月のベスト従業員を掲示板に写真入りで掲示してほめたたえます。
人間は、お金のためだけに働くのではないと思います。
人間は「いい仕事をしたい」「世の中の役に立ちたい」「人からほめられたい」という欲求を持って仕事をしているはずです。クレームが発生した時に従業員や仲間を非難するのではなく、いい仕事をしている人をほめたたえることが、良い商品や良いサービスをつくることにつながるはずです。従業員全員が、「自分の工場」「自分のお店」と思って働くようになれば、バイトテロは起きないのではないでしょうか。
「会社は誰のものですか?」
この答えを教育することが、バイトテロを防ぐ第一歩といえるでしょう。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)