既存の企業も「絶えず人手不足」で年がら年中、中途採用を募集しているような状態に陥ると、たとえカネがあっても生産ライン増設、生産や販売の拠点拡大、新事業進出など新しいことが始められない。それどころか社員が辞めるとなかなか補充できず、残った社員の業務負担が増す。「残業はイヤだ。転職先はいくらでもある」と、また辞める社員が出ると、一人ひとりの業務の負担がさらに増して労働環境が悪化し「ブラック企業化」の道をたどる。それは企業にとっても、そこで働く社員にとっても不幸なことだ。
「肥満は健康の敵」と言いながら、皮下脂肪がなければ人間は死んでしまうように、経済をスムーズに回すには最低でもある程度の失業率は必要になる。そんなことは、別に「労働経済学」を勉強しなくても、社会人なら常識の範囲内で十分、想像がつくだろう。
ただし、被災地での雇用は「公」が入ったことで、少し事情が異なっている。そこでは「臨時雇用対策」の名のもとに、ワークシェアリングが機能しているからである。例えば2014年度の各県被災地の「緊急雇用創出事業」による雇用創出目標は、岩手県が6150人、宮城県が7091人、福島県が5820人(市町村分含む)で、復興特別法人税・所得税が主な財源の、国の東日本大震災復興特別会計から緊急雇用創出事業臨時特例交付金という名の補助金が出て、被災地で人を雇う自治体や企業、団体に支給されている。
ワークシェアリングとは、ごく単純化していえば、1人分の仕事を2人で分け合えば雇用を2倍に増やせるという考え方で、その1人当たりの報酬は、公的な補助が加われば0.5人分ではなく0.7~0.8人分受けられるので、雇われる側にしても収入が安定する。終戦直後の1946年から当初、復員兵の雇用対策として国や自治体が始めた「失業対策事業」は、典型的なワークシェアリング政策だった。ちなみに、96年に緊急失業対策法が廃止されたことに伴い、失業対策事業は終焉を迎えた。
ワークシェアリングは、戦災や震災の直後で民間企業がまだ事業を再開できない状況では、作業と引き換えに「キャッシュ・フォー・ワーク」で現金を供給し、被災者の生活基盤の維持に大きく貢献する。東日本大震災では、この臨時雇用対策があったおかげで他の土地に移ることなく被災地にとどまった人は決して少なくない。一部のNPO法人や企業による悪用が報道されたが、ワークシェアリングの仕組み自体は決して悪くはない。